天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。 彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。 だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。 ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。 【「BOOK」データベースより】 映画化もされたガリレオシリーズの一作です。 原作の面白さはもちろんですが、映画版も素晴らしいの一言で、特に焦点の当たる登場人物を演じた松雪泰子さん、堤真一さんの演技が光っていました。 本書はミステリーとしての面はもちろんのこと、登場人物の心情が読者の心を強く揺さぶります。 深い愛情と深い哀しみは、何度読んでも忘れられません。 以下は本書に関する東野さんのインタビューです。 そこでこの記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。 ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。 Contents• 衝動的殺人 高校で数学教師をしている石神は毎朝、『べんてん亭』で弁当を買うのが習慣でした。 しかし、本当の目的は弁当ではなく、そこの店員の花岡靖子でした。 石神と靖子は隣人同士で、石神は靖子に恋をしていますが、いつもうまく会話することができません。 しかし、それでも彼女とその娘の美里がいるだけで彼の生活は潤い、今のままでいいと思っていました。 一方、べんてん亭を経営する米沢夫妻は石神の気持ちに気がついていて、それとなく靖子に言いますが、彼女は今いちピンときません。 靖子は米沢妻が雇われママをしていた店でホステスをしていて、誘われてここで働くようになりましたが、離婚をしていて、恩名で一つで美里を育てるのに手一杯で、その他のことに気を回す余裕がありませんでした。 ところが、そんな靖子の平穏は脅かされます。 元夫の富樫慎二がべんてん亭を訪れたのです。 彼は二人目の夫で、美里とは血が繋がっていません。 結婚当初こそ富樫は羽振りが良く、優しく見えましたが、会社のお金を不正に使用していたことが判明すると一転、暴力をふるわれるようになり、それが原因で離婚したのです。 富樫が来た理由は一つ。 靖子にお金をたかるためです。 彼女はダメと分かっていても、美里を守るために従うしか選択肢はありません。 自宅に連れていくと、靖子はお金を渡して二度と来ないでと言いますが、富樫は諦めるつもりなどこれっぽっちもなく、帰宅した美里にちょっかいさえ出します。 これからのことを考えて絶望する靖子ですが、富樫が帰る間際、美里は花瓶で富樫の頭を殴ります。 しかし、富樫はそれでは死なず、怒り狂って美里を殴り付けます。 このままでは美里が殺されてしまうと思った靖子は目に入った炬燵のコードで富樫の首を絞め、美里も彼を押さえつけます。 やがて富樫は息をしなくなり、二人は呆然とします。 その時、ドアがノックされ、相手は音を聞きつけた石神でした。 靖子はゴキブリが出たと誤魔化しますが、少しして今度は石神から電話が入り、彼は彼女たちが殺人を犯したことを見抜いていて、その上で隠蔽に協力してくれるといいます。 靖子にもはや選択肢などなく、石神を自宅に呼びます。 スポンサーリンク 隠蔽 部屋にきた石神は、靖子たちから事情を聞き、死体を自分の部屋に移動させます。 石神は靖子たちを助けたい一心で必死に論理的思考を働かせ、ある考えを思いつきます。 アリバイなど細かく靖子たちに指示すると、後は自分がなんとかすると言い、詳細は明かされません。 その後、旧江戸川の堤防で他殺体が発見されます。 死体は全裸で、顔が潰され、手の指は焼かれて指紋が破壊されていました。 さらに現場にはパンクした自転車が残されていました。 死体の身元を特定するのは難しそうですが、逆にいえば、それが出来れば事件は解決すると刑事の草薙は判断。 その後の調査で、自転車は盗難届けが出されている新品で、篠崎駅付近で盗まれたことが判明します。 幸いにも自転車には指紋が残されていました また、現場付近では一斗缶の中に燃え残った被害者の着ていた洋服が残されていました。 その後、警察の調査の結果、ある宿から一人の男性客が消えたことが分かり、その日付が三月十一日。 部屋に残された指紋と毛髪が採取され、毛髪は死体のものと、指紋は自転車のものと一致。 その部屋には富樫が泊まっていたため、警察は遺体が富樫として調査を進め、すぐに靖子と美里に辿り着きます。 事情を聞きますが、事件のあった三月十日の夜、二人は映画にラーメン屋、カラオケをはしごしていて、証拠となる半券や証言もあります。 隣に住む石神にも聞き込みをしますが、事件のあった夜は隣に特に不審な点はなかったといいます。 この時、草薙は郵便ポストに帝都大からの郵便物があることに気が付き、自分と同じ出身大学だと気が付きます。 これ以降、靖子と石神は度々連絡をとり、警察の動向を共有。 靖子と美里は石神の指示に従って証言するだけでした。 再会 草薙は、友人である湯川の研究室を訪れ、石神のことを報告。 すると湯川は石神のことを知っていて、進む科は違っても天才として一目置いていたといいます。 ある日、湯川は石神のアパートを訪れ、久しぶりの再会を喜び、天才は健在だということを思い知ります。 この時点では、湯川はまだ事件への石神の関与を疑ってはいません。 スポンサーリンク 男の影 本来であれば逮捕されるところを救ってもらい、石神に感謝しながら日々を過ごしていた靖子ですが、彼女のもとに工藤という男性が訪れます。 彼は靖子がホステスをしていた頃の客で、彼女のことをいつも気にかけてくれていました。 また妻を病気で亡くし、気兼ねする必要がなくなったせいか、靖子への好意を見せます。 靖子もまた工藤のことが嫌いではなく、美里のことも考えてくれる彼との再婚も頭をかすめます。 しかし一方で、そんなことをすれば石神がなんと言うか分からない。 いつしか、いつまで自分は石神の目を気にしながら生きて行かなければならないのかと思うようになっていくのでした。 崩せないアリバイ 湯川は、石神に会いにべんてん亭を訪れます。 その時、工藤が入ってきて石神の表情に嫉妬が生まれ、彼が靖子に恋をしていることに気が付きます。 また草薙から調査の協力を受けていることを話し、それとなく石神を疑うような質問をします。 石神もそのことに気が付き、湯川を警戒します。 一方、警察は富樫の殺害、死体の隠蔽などをするのは女性だけでは難しいのではと考え、男性の共犯者がいるのではと疑います。 そこで靖子に接触する工藤に話を聞きますが、草薙の感触では、彼は事件に関与しているようには思えませんでした。 スポンサーリンク 不審な行動 草薙は、湯川が単独で事件を追っていることに気が付き、何か知っているのではと聞きます。 ところが、湯川は個人的に追っているだけだと協力してくれません。 また草薙は、石神が共犯者なのではと疑いますが、いまいち靖子との繋がりが見えてきません。 一方、湯川はもし石神が共犯者だとしたらと仮定した上で、必要があれば殺人を犯せる人間であり、相当手強い相手だと草薙に言います。 その後の調査で草薙は、石神が事件のあった日の午前中、学校を休んでいることを知りますが、事件にはあまり関係ないと判断。 さらに靖子と石神の関係性は薄く、上層部は早くも興味を失っていました。 草薙は湯川にこのことを話した上で、石神から言われた『思いこみによる盲点をつく』などの話をします。 すると湯川の態度が一変。 彼は真相に辿り着いたようですが、草薙には教えてくれず、帰ってくれと一人になりたがるのでした。 自首 それから湯川は石神に会い、直接ではないが事件の真相に気が付いたことを伝えます。 石神はついに覚悟を決めます。 その夜、靖子にこれが最後の電話だとして、三通の封筒をポストに入れたからそれに従ってほしいといいます。 そして、自ら警察に自首をします。 草薙たちは慌てて事情聴取をすると、石神は富樫のことを殺害したと自白。 彼は靖子に対してストーカーまがいのことをしていて、彼女のために殺害したのだといいます。 事件当時、富樫から靖子たちの居場所を聞かれ、もうここには住んでいないと答えます。 引っ越し先の住所を聞かれたため、篠崎にあるアパートの住所だと嘘をついて下水処理場の場所を教えます。 その後、石神は道具を揃えて堤防に向かい、迷って困っている富樫を絞殺。 隠蔽工作を行い、帰宅したといいます。 証言は、警察が把握していることと大きな齟齬はなく、おおむね一致しています。 しかし、草薙はどうしても納得がいかず、石神が自首したことを靖子に伝えます。 すると、靖子は事前に石神から受け取っていた封筒を草薙に見せます。 そこには靖子に異常な執着を見せる石神の言葉が書かれた手紙が三通入っていました。 また、工藤のもとにも靖子に近づくなという内容の手紙が来たことが分かり、これも石神からだと思われます。 もはや石神の犯行だと考えるしかない状況でした。 真実 草薙はこのことを湯川に報告した上で、どうもしっくりこないと自分の意見を言います。 その後も湯川の様子がおかしく、草薙は尾行します。 着いたのは石神たちのアパート付近で、湯川は草薙の尾行に気が付いていました。 湯川はこれから靖子のもとを訪れるのだといい、誰にも言わないという約束の元、草薙に真実を明かします。 その後、湯川は草薙とは離れて靖子と二人きりになり、今回の事件の真実を伝えます。 旧江戸川での殺人事件の犯人は石神ですが、その遺体は富樫ではありません。 富樫が殺害されたのは三月九日で、旧江戸川で見つかった遺体は三月十日に殺害されています。 そして、その遺体の正体は、石神たちが住むアパート近くの河川敷に住むホームレスでした。 石神はその人物にアルバイトをお願いしたいと持ち掛け、富樫が着ていたものを着せた上で彼の泊まっていた宿で時間を潰させます。 事前に石神によって富樫の痕跡は消されていたので、宿に残るのはホームレスと指紋と毛髪だけです。 石神は自転車を二台盗むと、それでホームレスの男性と旧江戸川まで移動し、そこで殺害して隠蔽工作を行います。 新品の自転車を盗んだのは、放置されている可能性が低く、盗難届けを出してもらえる可能性が高いからです。 これによって犯行時刻は限定され、靖子たちに容疑をかけられても、アリバイがある状態にしたのです。 また映画館などアリバイが確実でないところもありましたが、この崩れそうで崩れないアリバイを作ることで、警察にアリバイ崩しに目を向けさせ、死体の誤認から目を逸らさせる狙いがありました。 湯川は、石神が午前休んだ日のことを知り、本当に隠したいことは前日にあったのではと推測。 そこからこの真実に辿り着きました。 そして、石神はもう一つの仕掛けをしていました。 仮に靖子たちの身代わりになったところで、いつ自白してしまうか分かりません。 そこで実際に殺人を犯すことで、自分の弱さを捨て、警察からの尋問に耐えられる精神状態を作り上げたのです。 もし、これから富樫の死体が見つかったところで、警察は旧江戸川の死体を富樫だと誤認しているので、そこから今回のことがバレる心配はありません。 結末 湯川は真実を全て靖子に伝えますが、自首することまでは言いませんでした。 全て靖子に判断を委ねたのです。 靖子はここで、ようやく警察が富樫を殺害した翌日のアリバイばかりを気にしていたのかを知ります。 全ては、石神の犠牲の上に成り立っていたのです。 その後、靖子は工藤からプロポーズされますが、それを保留。 頭の中は石神のことで一杯でした。 彼からは、工藤は誠実で信用できるから、結ばれた方が良いという内容の手紙を受け取っていました。 しかし、石神が犠牲になったにもかかわらず、自分たちだけが幸せになるなんて出来ません。 靖子ははじめて、こんなに深い愛情があることに気が付きます。 そして、美里が自殺未遂をしたと連絡があり、ある決心をします。 場面は変わり、石神は靖子と美里が引っ越してきた時のことを思い出していました。 彼は自殺を考えていましたが、隣に引っ越してきた靖子と美里に救われ、交わらなくても彼女たちのそばで暮らせるだけで幸せでした。 だから、彼女たちを助けたのは石神にとって当然のことだったのです。 そして、いかに湯川が相手でも自分の勝ちだと、勝利を確信していました。 ところが、草薙に会ってもらい人物がいると言われ、湯川が現れます。 彼は、旧江戸川の遺体の身元を探せば、いずれバレてしまうことを指摘しますが、石神はその頃までに自分の裁判が終わり、控訴などしないと決めていました。 これで事件は解決し、もう靖子たちに警察の手が及ぶことはありません。 石神は改めて勝利を確信します。 しかし、最後の最後で予想外のことが起きます。 靖子が現れ、自分の罪を認めたのです。 この瞬間、石神の計画は全て無駄になり、獣の咆哮のように泣き叫ぶのでした。 おわりに 純粋な愛情の裏に隠された、悲しい真実。 単なるミステリーを超えた圧巻の小説だと思います。
次の上映終了• レビュー• 出演者達の演技は申し分ない!! 彼が石神役じゃなかったら、果たして、、、 中身を更に広げる芝居 芝居と言うのも何か違う、鬼気迫る何か をしてたのは堤さんだけ。 ひとつ気になったのは、新しい自転車を盗んだのは何のためなんでしょうか? P. T-T キャストの皆さん(特に堤さん)の演技には引き込まれ、自分のことのように思えました。 メジャー系の邦画でこんなに面白かった作品は初めてです。 みなさん書いてらっしゃるように堤真一の演技の秀逸さに尽きると思います。 素晴らしい俳優さんです。 福山さん目当てで行ったのですが、本当堤さんにやられました。 あの歩き方など、中年の数学の先生になりきっていてすごかったです。 私としては雪山のシーンはあんましいらなかったなあ…。 あと柴咲コウちゃんが若干邪魔でした(笑) ほんっと泣けて、せつないいい映画です。 本当の愛とは、ただ相手の幸せを願うこと。 みかえりをもとめないこと。 その姿がとても美しかった。 これは数学の問題を解くときの彼の理論通りです。 星が4つなのは、ラストが辛かったから。 本当に愛することと、愛されることを知ったふたりは、決して不幸ではないと思いますが、だからこそ罪は重く、そのことを、とても辛く感じます。 ガリレオというか、堤さんの映画のような気がしました。 上手でした。 トリックも凄かったし、最後も泣きました。 久しぶりに映画みて泣きました。 ドラマの現実感ないトリックも良かったけど、映画のトリックも考えつけない感じで驚愕。 ガリレオ見て、こんなに泣くとは思いませんでした。 やっぱり映像としてのガリレオには湯川が計算式を書くシーンや,内海刑事とのテンポのいい掛け合いがあって欲しかったです。 私が1番ショックだったのはドラマの最終回 去年12月の場面 から映画の12月までの1年間,湯川と内海刑事の関係が進展してなかったってことです。 せめて相方として,もうちょっと仲良くなっててもいいのになぁ… P. 私は原作を読んで心動かされたので、はしょられた部分が残念でしたが、それでも楽しめました。 堤真一と松雪泰子の演技がすごく良かったです。 福山雅治もよかったけど、私は、堤・松雪コンビの方が印象に残りました。 柴崎コウがかすんで見えた…。 旦那は原作を読まずに行きましたが「おもしろかった!観てよかった!」と言っていました。 原作を読んでも読まなくても楽しめる作品だと思います。 テレビ放送で十分な気が ー P. 邦画で、これほど奥が深くリアリティがあり、またどことなく現実味を帯びている映画は初めて観た。 大袈裟かもしれないが、世界に誇れる作品だと思う。 堤真一演技やばいです。 当たり映画です! P. 物語上の主役である石神が、人間味あふれる、それでいて一線を引いているような、客の気持ちにすんなり入ってくる感じ。 ただし、献身的な石神の払った犠牲の見せ方が良くなかったから、石神の演技しか目にとまらない。 石神の払った犠牲の大きさ、その犠牲を払う事を瞬時に考えついた事の驚きをもっと見せる必要があった。 終わった後すぐに席を立つことができませんでした。 今回の謎ときには驚きました。 しかし、愛情の大切さを考えさせられました…。 世の中になり自分自身考えさせられました…。 キャスト&スタッフの皆様の素晴らしい作品に大きな大きな拍手を贈らせて戴きたいです。 ただ他の人達も書かれて ますが、堤さんの演技は 素晴らしく、福山さんの 湯川もまさにハマリ役と いう感じで、決して 見て損をしない映画です。 流石、原作が原作だけによくあるドラマの映画版のような薄っぺらい内容ではなく、がっつり観客を引き込む作品な気がします。 何よりも堤さんの演技はまさに神業です。
次の天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。 彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。 だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。 ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。 【「BOOK」データベースより】 映画化もされたガリレオシリーズの一作です。 原作の面白さはもちろんですが、映画版も素晴らしいの一言で、特に焦点の当たる登場人物を演じた松雪泰子さん、堤真一さんの演技が光っていました。 本書はミステリーとしての面はもちろんのこと、登場人物の心情が読者の心を強く揺さぶります。 深い愛情と深い哀しみは、何度読んでも忘れられません。 以下は本書に関する東野さんのインタビューです。 そこでこの記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。 ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。 Contents• 衝動的殺人 高校で数学教師をしている石神は毎朝、『べんてん亭』で弁当を買うのが習慣でした。 しかし、本当の目的は弁当ではなく、そこの店員の花岡靖子でした。 石神と靖子は隣人同士で、石神は靖子に恋をしていますが、いつもうまく会話することができません。 しかし、それでも彼女とその娘の美里がいるだけで彼の生活は潤い、今のままでいいと思っていました。 一方、べんてん亭を経営する米沢夫妻は石神の気持ちに気がついていて、それとなく靖子に言いますが、彼女は今いちピンときません。 靖子は米沢妻が雇われママをしていた店でホステスをしていて、誘われてここで働くようになりましたが、離婚をしていて、恩名で一つで美里を育てるのに手一杯で、その他のことに気を回す余裕がありませんでした。 ところが、そんな靖子の平穏は脅かされます。 元夫の富樫慎二がべんてん亭を訪れたのです。 彼は二人目の夫で、美里とは血が繋がっていません。 結婚当初こそ富樫は羽振りが良く、優しく見えましたが、会社のお金を不正に使用していたことが判明すると一転、暴力をふるわれるようになり、それが原因で離婚したのです。 富樫が来た理由は一つ。 靖子にお金をたかるためです。 彼女はダメと分かっていても、美里を守るために従うしか選択肢はありません。 自宅に連れていくと、靖子はお金を渡して二度と来ないでと言いますが、富樫は諦めるつもりなどこれっぽっちもなく、帰宅した美里にちょっかいさえ出します。 これからのことを考えて絶望する靖子ですが、富樫が帰る間際、美里は花瓶で富樫の頭を殴ります。 しかし、富樫はそれでは死なず、怒り狂って美里を殴り付けます。 このままでは美里が殺されてしまうと思った靖子は目に入った炬燵のコードで富樫の首を絞め、美里も彼を押さえつけます。 やがて富樫は息をしなくなり、二人は呆然とします。 その時、ドアがノックされ、相手は音を聞きつけた石神でした。 靖子はゴキブリが出たと誤魔化しますが、少しして今度は石神から電話が入り、彼は彼女たちが殺人を犯したことを見抜いていて、その上で隠蔽に協力してくれるといいます。 靖子にもはや選択肢などなく、石神を自宅に呼びます。 スポンサーリンク 隠蔽 部屋にきた石神は、靖子たちから事情を聞き、死体を自分の部屋に移動させます。 石神は靖子たちを助けたい一心で必死に論理的思考を働かせ、ある考えを思いつきます。 アリバイなど細かく靖子たちに指示すると、後は自分がなんとかすると言い、詳細は明かされません。 その後、旧江戸川の堤防で他殺体が発見されます。 死体は全裸で、顔が潰され、手の指は焼かれて指紋が破壊されていました。 さらに現場にはパンクした自転車が残されていました。 死体の身元を特定するのは難しそうですが、逆にいえば、それが出来れば事件は解決すると刑事の草薙は判断。 その後の調査で、自転車は盗難届けが出されている新品で、篠崎駅付近で盗まれたことが判明します。 幸いにも自転車には指紋が残されていました また、現場付近では一斗缶の中に燃え残った被害者の着ていた洋服が残されていました。 その後、警察の調査の結果、ある宿から一人の男性客が消えたことが分かり、その日付が三月十一日。 部屋に残された指紋と毛髪が採取され、毛髪は死体のものと、指紋は自転車のものと一致。 その部屋には富樫が泊まっていたため、警察は遺体が富樫として調査を進め、すぐに靖子と美里に辿り着きます。 事情を聞きますが、事件のあった三月十日の夜、二人は映画にラーメン屋、カラオケをはしごしていて、証拠となる半券や証言もあります。 隣に住む石神にも聞き込みをしますが、事件のあった夜は隣に特に不審な点はなかったといいます。 この時、草薙は郵便ポストに帝都大からの郵便物があることに気が付き、自分と同じ出身大学だと気が付きます。 これ以降、靖子と石神は度々連絡をとり、警察の動向を共有。 靖子と美里は石神の指示に従って証言するだけでした。 再会 草薙は、友人である湯川の研究室を訪れ、石神のことを報告。 すると湯川は石神のことを知っていて、進む科は違っても天才として一目置いていたといいます。 ある日、湯川は石神のアパートを訪れ、久しぶりの再会を喜び、天才は健在だということを思い知ります。 この時点では、湯川はまだ事件への石神の関与を疑ってはいません。 スポンサーリンク 男の影 本来であれば逮捕されるところを救ってもらい、石神に感謝しながら日々を過ごしていた靖子ですが、彼女のもとに工藤という男性が訪れます。 彼は靖子がホステスをしていた頃の客で、彼女のことをいつも気にかけてくれていました。 また妻を病気で亡くし、気兼ねする必要がなくなったせいか、靖子への好意を見せます。 靖子もまた工藤のことが嫌いではなく、美里のことも考えてくれる彼との再婚も頭をかすめます。 しかし一方で、そんなことをすれば石神がなんと言うか分からない。 いつしか、いつまで自分は石神の目を気にしながら生きて行かなければならないのかと思うようになっていくのでした。 崩せないアリバイ 湯川は、石神に会いにべんてん亭を訪れます。 その時、工藤が入ってきて石神の表情に嫉妬が生まれ、彼が靖子に恋をしていることに気が付きます。 また草薙から調査の協力を受けていることを話し、それとなく石神を疑うような質問をします。 石神もそのことに気が付き、湯川を警戒します。 一方、警察は富樫の殺害、死体の隠蔽などをするのは女性だけでは難しいのではと考え、男性の共犯者がいるのではと疑います。 そこで靖子に接触する工藤に話を聞きますが、草薙の感触では、彼は事件に関与しているようには思えませんでした。 スポンサーリンク 不審な行動 草薙は、湯川が単独で事件を追っていることに気が付き、何か知っているのではと聞きます。 ところが、湯川は個人的に追っているだけだと協力してくれません。 また草薙は、石神が共犯者なのではと疑いますが、いまいち靖子との繋がりが見えてきません。 一方、湯川はもし石神が共犯者だとしたらと仮定した上で、必要があれば殺人を犯せる人間であり、相当手強い相手だと草薙に言います。 その後の調査で草薙は、石神が事件のあった日の午前中、学校を休んでいることを知りますが、事件にはあまり関係ないと判断。 さらに靖子と石神の関係性は薄く、上層部は早くも興味を失っていました。 草薙は湯川にこのことを話した上で、石神から言われた『思いこみによる盲点をつく』などの話をします。 すると湯川の態度が一変。 彼は真相に辿り着いたようですが、草薙には教えてくれず、帰ってくれと一人になりたがるのでした。 自首 それから湯川は石神に会い、直接ではないが事件の真相に気が付いたことを伝えます。 石神はついに覚悟を決めます。 その夜、靖子にこれが最後の電話だとして、三通の封筒をポストに入れたからそれに従ってほしいといいます。 そして、自ら警察に自首をします。 草薙たちは慌てて事情聴取をすると、石神は富樫のことを殺害したと自白。 彼は靖子に対してストーカーまがいのことをしていて、彼女のために殺害したのだといいます。 事件当時、富樫から靖子たちの居場所を聞かれ、もうここには住んでいないと答えます。 引っ越し先の住所を聞かれたため、篠崎にあるアパートの住所だと嘘をついて下水処理場の場所を教えます。 その後、石神は道具を揃えて堤防に向かい、迷って困っている富樫を絞殺。 隠蔽工作を行い、帰宅したといいます。 証言は、警察が把握していることと大きな齟齬はなく、おおむね一致しています。 しかし、草薙はどうしても納得がいかず、石神が自首したことを靖子に伝えます。 すると、靖子は事前に石神から受け取っていた封筒を草薙に見せます。 そこには靖子に異常な執着を見せる石神の言葉が書かれた手紙が三通入っていました。 また、工藤のもとにも靖子に近づくなという内容の手紙が来たことが分かり、これも石神からだと思われます。 もはや石神の犯行だと考えるしかない状況でした。 真実 草薙はこのことを湯川に報告した上で、どうもしっくりこないと自分の意見を言います。 その後も湯川の様子がおかしく、草薙は尾行します。 着いたのは石神たちのアパート付近で、湯川は草薙の尾行に気が付いていました。 湯川はこれから靖子のもとを訪れるのだといい、誰にも言わないという約束の元、草薙に真実を明かします。 その後、湯川は草薙とは離れて靖子と二人きりになり、今回の事件の真実を伝えます。 旧江戸川での殺人事件の犯人は石神ですが、その遺体は富樫ではありません。 富樫が殺害されたのは三月九日で、旧江戸川で見つかった遺体は三月十日に殺害されています。 そして、その遺体の正体は、石神たちが住むアパート近くの河川敷に住むホームレスでした。 石神はその人物にアルバイトをお願いしたいと持ち掛け、富樫が着ていたものを着せた上で彼の泊まっていた宿で時間を潰させます。 事前に石神によって富樫の痕跡は消されていたので、宿に残るのはホームレスと指紋と毛髪だけです。 石神は自転車を二台盗むと、それでホームレスの男性と旧江戸川まで移動し、そこで殺害して隠蔽工作を行います。 新品の自転車を盗んだのは、放置されている可能性が低く、盗難届けを出してもらえる可能性が高いからです。 これによって犯行時刻は限定され、靖子たちに容疑をかけられても、アリバイがある状態にしたのです。 また映画館などアリバイが確実でないところもありましたが、この崩れそうで崩れないアリバイを作ることで、警察にアリバイ崩しに目を向けさせ、死体の誤認から目を逸らさせる狙いがありました。 湯川は、石神が午前休んだ日のことを知り、本当に隠したいことは前日にあったのではと推測。 そこからこの真実に辿り着きました。 そして、石神はもう一つの仕掛けをしていました。 仮に靖子たちの身代わりになったところで、いつ自白してしまうか分かりません。 そこで実際に殺人を犯すことで、自分の弱さを捨て、警察からの尋問に耐えられる精神状態を作り上げたのです。 もし、これから富樫の死体が見つかったところで、警察は旧江戸川の死体を富樫だと誤認しているので、そこから今回のことがバレる心配はありません。 結末 湯川は真実を全て靖子に伝えますが、自首することまでは言いませんでした。 全て靖子に判断を委ねたのです。 靖子はここで、ようやく警察が富樫を殺害した翌日のアリバイばかりを気にしていたのかを知ります。 全ては、石神の犠牲の上に成り立っていたのです。 その後、靖子は工藤からプロポーズされますが、それを保留。 頭の中は石神のことで一杯でした。 彼からは、工藤は誠実で信用できるから、結ばれた方が良いという内容の手紙を受け取っていました。 しかし、石神が犠牲になったにもかかわらず、自分たちだけが幸せになるなんて出来ません。 靖子ははじめて、こんなに深い愛情があることに気が付きます。 そして、美里が自殺未遂をしたと連絡があり、ある決心をします。 場面は変わり、石神は靖子と美里が引っ越してきた時のことを思い出していました。 彼は自殺を考えていましたが、隣に引っ越してきた靖子と美里に救われ、交わらなくても彼女たちのそばで暮らせるだけで幸せでした。 だから、彼女たちを助けたのは石神にとって当然のことだったのです。 そして、いかに湯川が相手でも自分の勝ちだと、勝利を確信していました。 ところが、草薙に会ってもらい人物がいると言われ、湯川が現れます。 彼は、旧江戸川の遺体の身元を探せば、いずれバレてしまうことを指摘しますが、石神はその頃までに自分の裁判が終わり、控訴などしないと決めていました。 これで事件は解決し、もう靖子たちに警察の手が及ぶことはありません。 石神は改めて勝利を確信します。 しかし、最後の最後で予想外のことが起きます。 靖子が現れ、自分の罪を認めたのです。 この瞬間、石神の計画は全て無駄になり、獣の咆哮のように泣き叫ぶのでした。 おわりに 純粋な愛情の裏に隠された、悲しい真実。 単なるミステリーを超えた圧巻の小説だと思います。
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