新型コロナウイルスの感染対策として、手洗いうがいに加え、消毒剤を使うことがうたわれています。 「一般の方々が生活のなかで正しく意識しなければならないのは、除菌と消毒という2つの用語です。 これを意識することで、神経質になりすぎたり、消毒剤を過剰に使用することを緩和し、適切な対処に繋がります」と話すのは、長年に渡って一般住宅、大学病院、老人介護施設など異なる環境に存在する「真菌・細菌・ダニ・微小昆虫」などを総合的に調査・研究してきた博士(農学)の川上裕司さん。 生活環境での手洗いの正しい手順と消毒剤の使い方について、詳しく寄稿していただきました。 その後、手洗いへ(写真はイメージです) 新型コロナウイルス感染対策。 しかしながら、新型コロナウイルスの感染症対策において、一般の方々が生活のなかで意識しなければならないのは、除菌と消毒という2つの用語です。 日々励行している手洗いが「除菌」にあたります。 近年、市販されている洗剤などの商品に「除菌」という用語が表示されていることもあり、殺菌や消毒という用語としばしば混同されることが多いようです。 しかしながら、「除菌」の本当の意味は微生物を対象物から物理的に取り除くことです。 また、殺菌と近い意味のため、間違って使われることが多い「消毒」の本当の意味は、病原性のある微生物を対象物から害のない程度まで数を減らしたり、無毒化することです。 ここに示す「高水準」とは病院の手術室などの清潔区域での消毒を意味するので、新型コロナウイルス感染症対策として必要な水準は「中水準」です。 前述のとおり、生きている(活性のある)ウイルスの数を減らし、不活化させて感染できないようにするための処理が消毒であり、100%死滅させることが目的ではありません。 これは対策のためにとても大事な概念です。 新型コロナウイルスはエンベロープウイルス(インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなど)ですので、消毒用エタノールによってエンベロープを破壊して不活化することができます。 筆者も日々自宅や職場で励行していることです。 まず大切なことは玄関のシューズボックスの上などに、消毒剤を置くことです。 多くのオフィスビルの玄関口にも自動消毒剤噴霧器が設置されていることを目にします。 帰宅したら、靴を脱ぐ前に手指に消毒剤を噴霧して、とくに指先の消毒に心がけてください。 その後、すぐに洗面所へ行き手洗いとうがいをしっかり行いましょう! 先に手指の消毒をしなかった場合、洗面所に行くまでの間に、玄関のたたき、ドアノブ、テーブル、イス、そして、うがい用のコップにウイルスが移染することが懸念されます。 水道水の流水を使った手洗いの仕方は、たくさん情報が出ていますので、ここでは割愛します。 大切なことは洗浄剤を使ってよく泡立てて洗うことです。 なにが優れているかといえば、塩素濃度の管理が、1957年(昭和32年)に制定された水道法によって、「蛇口での残留塩素濃度を0.1mg/L以上1mg/L以下(0.1~1ppm)に保持する」と定められ、遵守されているからです。 東京都水道局では、残留塩素濃度を水道法で定められている0.1mg/L以上、水質管理目標設定項目の目標値である1mg/L以下を蛇口において常に確保できるように管理しています。 塩素濃度が管理された日本の水道水を使って手洗いをすることは、塩素管理に不備がある諸外国に比べて、ウイルスを不活化するために優位であると言えます。 しっかり手洗いを励行すればそれだけで十分ですが、家族が多い家庭や子どもがいる家庭では、食事をする前に消毒用エタノールを手に噴霧するとさらに安心です。 今後は、良識ある免疫学の専門家が指摘してされているように、「集団免疫の獲得」が終息の1つのカギとなると筆者も考えます。 前回も述べたように、夏季の気候はヒト側に優位であることは間違いありませんが(恐らく集団免疫獲得の観点からも)、注意すべきは高温多湿の環境を好み、夏季に活性が高まるノンエンベロープウイルスが原因となる夏風邪(6月末から7月にかけて流行する風邪症候群)です。 アデノウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルスなどによる感染症で、発熱、腹痛、下痢、喉の痛みなどの症状が出ます。 また、稀に、夏季にインフルエンザに感染する方もいます。 賢明な読者の皆さんは、お気づきのことと思いますが、「PCR検査をしないかぎり、新型コロナウイルス感染症と見分けがつかず、更に、夏風邪が回復した直後の弱った身体に新型コロナウイルスが感染する」ことが懸念されます。 そこで、筆者が推奨したいのは、これからの季節は「次亜塩素酸ナトリウム液」(市販のキッチン用漂白剤を0.05%に希釈した液:保健所推奨)を意識的に使用することです。 とくに、ドアノブやテーブルなどの生活環境中の消毒処理は、エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスの両者に対して効果のある「次亜塩素酸ナトリウム液」を染みこませた布でふき取るといいでしょう。 この場合、必ずゴム手袋をして使う必要があります。 (株)エフシージー総合研究所暮らしの科学部(フジテレビ商品研究所)取締役・部長。 環境微生物を専門とする。 エフシージー総合研究所公式サイト内で「新型コロナウイルス感染症対策~IPM研究室~環境微生物学の研究者~の立場から~」のコラムを掲載中.
次の手洗いについて 手洗いは目的によって「日常的手洗い」「衛生的手洗い」「手術時手洗い」の3つに分けられます。 「日常的手洗い」は食事の前や排便排尿後など、社会生活などで行われる手洗いです。 通常、水道水と石鹸または水道水のみにて行われています。 「衛生的手洗い」は病院において診療の前後に行われており、「アルコール手指消毒」もしくは「石鹸と水道水による手洗い」が行われてます。 「手術時手洗い」は手術前におこなわれる最も水準の高い手洗いであり、アルコール手指消毒液を用いた手洗いが行われています。 これまで社会生活では「日常的手洗い」が行われていました。 これは健常人が行うものであり、手指に多少の病原体が残っていても重篤な感染症を引き起こすことがないという前提の手洗いでした。 そのため、手洗いでは水道水のみが用いられていたり、手洗いの後にはハンカチを用いて手を拭っていたりしていました。 ハンカチは1日一枚の使用頻度のことが多く、同じハンカチが何回も使用されるため、手洗いで微生物が洗い流されたとしても、ハンカチに付着している微生物で手指を再び汚染させてしまいます。 また、ハンカチはハンドバックやポケットに保存されていることから、それらの内部の汚れや微生物がハンカチに付着している可能性もあります。 そのため、手洗いのあとは、ペーパータオルやハンドドライヤーなどによって手指を乾燥させなければなりません。 最近はハンドドライヤーがエアロゾルを作り出すということで、使用禁止としている施設もあります。 しかし、濡れたままの手指には微生物が付着しやすいということから、ハンドドライヤーが使用できないということにも問題があります。 新型コロナウイルスに対する免疫を持っている人はいません。 すなわち、健常人であっても、新型コロナウイルスに曝露すれば感染し、そのなかの一部の人々が重症化します。 そのため、社会生活であっても、「日常的手洗い」ではなく、「衛生的手洗い」を導入する必要が出てきました。 すなわち、病院で行われている手洗いを日常生活でも行うことが大切なのです。 「衛生的手洗い」ではアルコール手指消毒が第一推奨です。 ただし、手が肉眼的に汚れているときには石鹸と水道水による手洗いを行います。 アルコール手指消毒液が石鹸と流水の手洗いよりも有効な理由 2002年、米国疾病管理予防センター CDC: Centers for Disease Control and Prevention は「医療施設における手指衛生のためのガイドライン」を公開しました 1。 これはエビデンスに基づいた優れたガイドラインであり、手指衛生を大きく進歩させるものでした。 従来、殆どの診療に際しては「普通の石鹸での手洗い」を行い、侵襲性処置の前後やハイリスク患者の診療には「薬用石鹸での手洗い」が推奨され、アルコール手指消毒液は手洗い場が近くにない状況でのみ使用されてきました。 しかし、CDCは手が肉眼的に汚れていなければ、アルコール手指消毒液を日常的に用い、手が肉眼的に汚れるか蛋白性物質で汚染された場合には石鹸と流水にて手洗いすることを推奨したのです。 アルコール手指消毒液が石鹸と流水の手洗いよりも優先的に使用される主な理由には下記の4つがあります。 石鹸を頻繁かつ繰り返して使用していると、慢性刺激性接触皮膚炎を引き起こすことがあります。 このような皮膚炎によって、皮膚の細菌叢が変化し、それに伴ってブドウ球菌やグラム陰性桿菌が頻繁に付着するようになるのです。 過去には、皮膚炎を最小限に食い止めるために、病院は非抗菌性石鹸を提供してきましたが、その種の製品を多用すると、皮膚損傷、乾燥、刺激を生じることがあります 3。 このような状況に対応するための手段として、保湿剤を含むアルコール手指消毒液の使用が推奨されました。 一方、アルコール手指消毒液は30秒後で手指の細菌数を約3,000分1に減少させ、1分後には10,000~100,000分の1まで減少させることができるのです 6。 従って、手指に付着した病原体の減少といった点からも、アルコール手指消毒液が推奨されるのです。 手指衛生製剤へのアクセスが短時間でできれば、手洗いの遵守率を改善することができます。 集中治療室を対象に行った研究によると、看護師が患者のベッドサイドを離れて手洗い場まで歩き、手を洗って患者の看護に戻るまでに、平均62秒を要しました 7。 一方、各患者のベッドサイドに置かれたアルコール手指消毒液を使えば、時間は4分の1に短縮できます。 このように、手指衛生製剤に簡単にアクセスできるようにすることは、手洗いを適正に実施するための重要な対応であり、それを可能にするのがアルコール手指消毒液と言えます。 外出時にはアルコール手指消毒液を携帯することが奨められる 新型コロナウイルスは眼、鼻、口の粘膜から体内に侵入します。 人間は無意識に眼、鼻、口に触れるのですが、その頻度は多く、1時間に23回も触れるというデータがあります 9。 すなわち、3分に1回の頻度で手指が顔に触れているのです。 そのため、手指が粘膜に触れる前に手洗いすることが大切であり、手洗いの頻度は多くなります。 しかし、石鹸と水道水での手洗いを頻回に行うことは不可能です。 手洗いするためには、毎回、手洗い場まで移動しなくてはならないからです。 しかし、携帯のアルコール手指消毒液を持っていれば、常に手指消毒することができます。 従って、外出時にはアルコール手指消毒液を携帯することが奨められます。 一般家庭や職場におけるアルコール手指消毒液の必要性 外出後に帰宅するとき、外勤から職場に戻るときには手指消毒が必要です。 新型コロナウイルスが手指に付着したまま、自宅や職場に入り込むと、ドアノブや手すりなどにウイルスを付着させてしまうからです。 新型コロナウイルスはボール紙の上では24時間以内、プラスティックの上では最大3日、感染性を保っています 10。 そのため、環境表面にウイルスが付着すると感染源となる可能性があります。 そのような「手指の高頻度接触表面」をウイルスで汚染させないためにも、CDCは家庭や職場では玄関や入口で手を清潔にすることを推奨しています 11。 アルコール手指消毒液を玄関や入口に設置しておいて、帰宅したときや職場に戻ってきたときに、必ず手指消毒をすることが大切です。 まとめ 新型コロナウイルスの流行によって、手指消毒の重要性が強調されるようになりました。 これまで「日常的手洗い」でも充分であった社会生活であっても、すべての人々が免疫を持たない新型コロナウイルスの出現によって、病院で実施されている「衛生的手洗い」が求められるようになりました。 「衛生的手洗い」ではアルコール手指消毒が第一推奨となっています。 これは、どこにでも持ち運びができ、即効性かつ強力な殺菌力があることと、頻回に使用できることが挙げられます。 アルコール手指消毒液を適切に使用することによって、新型コロナウイルスのみならず、感冒ウイルスやインフルエンザウイルスなど多くの病原体の感染も防ぐことができます。 [文献]• CDC. Guideline for hand hygiene in health-care settings. MMWR 51 RR-16 : 1-47, 2002. Larson E, et al. Prevalence and correlates of skin damage on the hands of nurses. Heart Lung 26:404-412, 1997. Boyce JM, et al. Skin irritation and dryness associated with two hand-hygiene regimens: soap-and-water handwashing versus hand antisepsis with an alcoholic hand gel. Infect Control Hosp Epidemiol 21:442-448, 2000. Ayliffe GA, et al. Hand disinfection: a comparison of various agents in laboratory and ward studies. J Hosp Infect 1988;11:226-243. Daschner F. How cost-effective is the present use of antiseptics?. J Hosp Infect 1988;11 Suppl A :227-235. Rotter M. Hand washing and hand disinfection. In: Mayhall, C. , eds. Hospital epidemiology and Infection control. Voss A, Widmer AF. No time for handwashing!? Infect Control Hosp Epidemiol 18:205-8, 1997. Patrick DR, et al. Residual moisture determines the level of touch-contact-associated bacterial transfer following hand washing. Epidemiol Infect 119:319-25,1997. Kwok YL, et al. Face touching: a frequent habit that has implications for hand hygiene. Am J Infect Control. 2015 Feb;43 2 :112-4. Doremalen NW, et al. Aerosol and surface stability of HCoV-19 SARS-CoV-2 compared to SARS-CoV-1• CDC. Keeping workplaces, homes, schools, or commercial establishments safe.
次の新型コロナウイルス予防のために大切な手洗いやアルコール消毒。 手洗い後、水を止めるためにピカピカの手で水道のレバーに触ったり、アルコール消毒液節約のためにポンプを半押しで使ったりしていませんか? 手洗いを終え、ほっとしたそこに、せっかくの手洗いを残念な手洗いにする落とし穴があります。 手洗い後、水をどうやって止めていますか? が示した手順にしたがって爪も、爪と皮膚の境目も、親指の付け根も念入りに、かつが示す通りに20秒以上手を洗ってピカピカになりました。 完璧に手洗いをしたのに、キレイになったその手で水道のレバーに触れて水を止めていませんか? これが1つ目の落とし穴です。 最近はレバーに触れることなく自動で水が出てくるタイプの水道も多いのですが、手で操作が必要な水道の場合は手洗い後に注意が必要です。 手洗い後にレバーなどに触れたらせっかくキレイにした手が再び汚れてしまうからです。 ではどうやって水を止めるのかというとペーパータオルを使います。 もしペーパータオルがなかったら手指を使わず、肘などを使って操作するようにしましょう。 手洗い後、濡れた手のまま髪の毛や化粧室のドアノブなどに触っていませんか? 手洗い後、化粧室を見回してみるとペーパータオルがありません。 カバンやポケットを探してみますがハンカチもありません。 そんなとき、濡れた手でヘアスタイリングしたり、パッパッと水を払ってドアノブを触ったりしていませんか? これが2つ目の落とし穴です。 髪の毛には誰かのくしゃみや咳で飛び散った飛沫によってウイルスが付着している可能性があります。 ドアノブには、何らかのウイルスや細菌を含む飛沫に触った誰かの手を介した微生物が付着しているかもしれません。 「医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン」によると、濡れた手からさまざまな表面へ移動するウイルスや細菌などの微生物の数は完全に乾いた手からの移動の数より多いことが示されています。 濡れた手を介して自分や周りの人にウイルスなどの微生物を運んでしまうことがないよう、手はしっかり乾燥させましょう。 そのためには手洗い後にペーパータオルがなかったときに対応できるよう、清潔なハンカチなどを持ち歩くように心がけたいですね。 また、手洗い後に手を十分に乾燥させずに濡れたままでいることは、アルコール消毒液を使った手指消毒をも台無しにする恐れがあります。 手に残った水分でアルコール消毒液が薄まり、消毒の効果が低下するためです。 アルコール消毒液節約のため、半押ししながら少しずつ使っていませんか? アルコール消毒液が手に入りづらい状況が続いています。 いつ入手できるか分からないからといって、現在の手持ちのアルコール消毒液を少しずつ大事に使っているという人もいるのではないでしょうか。 これが3つ目の落とし穴です。 前述の「医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン」によると、アルコールベースの手指衛生用品の効き目は、使用されるアルコールの種類、濃度、接触時間、使用量、塗布時に手が濡れていたかなどの要因が影響するとされています。 そして、アルコール消毒液の使用量が0. 2~0. 5mLの少量の場合では、普通のせっけんと水による手洗いより優れた効果は得られないとしています。 したがって、1プッシュを押し切らずに節約して使っていたのでは消毒に適した使用量に至らず、期待した効果が得られない可能性があります。 では、アルコール消毒液を使って手指を消毒するにはどうするのかというと、適切な量のアルコール消毒液をよく擦りこみ、30秒以上かけて乾燥させます。 cdc. mhlw. mhlw. kansensho. php? kankyokansen. php?
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