全員がジムチャレンジでバッジを集め切ったことが売りでもあり、CDにつくバトル券でそれぞれと一回バトルをすることの出来るバトル会に参加することが出来る、そんなアイドルである。 抱き合わせ商法だの色々とアンチの声も大きいが歌唱力もダンスもバトルも悪くないと、今や押しも押されぬトップアイドル。 そのセンターをつとめるのが、アンズである。 バトル券の無い人とはバトルをしない、そんなpiーka!がバトルタワーに出現するとあって、話題性は充分である。 もちろんダンデ自らがバトルすることもあるバトルタワーは元より話題性は充分なのだが、今回はバトルライト層を取り込む狙いなので、piーka!のファン層がずばり当てはまる。 ダンデはニコニコと愛らしく笑顔を振りまくアンズを何度目かわからないが脳内で検索していた。 どうにも彼女と初対面の時から妙に初対面では無いような違和感があった。 その眼を、どこかで。 ダンデは観察眼に優れた男であるが、なぜかアンズは脳内の検索に引っかからず、そのせいでどうにも気になってしまう。 「おつかれさまでーす!」 ニコニコと笑顔のまま去っていくアンズを見送って、どこで見たのだったか、と首を傾げるダンデに、ADがすすと近寄ってくる。 「ダンデさんアンズちゃん気になってます?アンズちゃん推しになるなら歓迎っすよ!今度のバトル券一枚あげるんで、行ってみてください」 「あ、いや…すまないな」 そういう意味で見ていたわけではないけれど、ダンデは布教用なんで!とバトル券を押し付けられた。 ダンデはあまりこのバトル券という売り方が好きではない。 バトルをするならリーグに挑戦するなり野良バトルするなり、タワーにくるなりするべきで、CDに付随すべきものではないのではないかと思ってしまう。 ガラルにおいてバトルは興行であるのでほかの地方のトレーナーよりは抵抗が少ないとは思うが、エンターテインメントとして中途半端、と感じるのだ。 とはいえ見たことが無いものを否定的に思うのは良くない。 ダンデはバトル券の裏に書かれて案内をよく読み、当日を迎えた。 駅で件のADに会えたのは運が良かった。 正直ダンデ一人では辿り着けるかわからない場所だったと笑うと、ADはこんなにデカい施設なのに!?と驚いていたが、ダンデはエンジンシティの昇降機を見失う男であるので、本当に辿り着けなかったはずだ。 「あ、ダンデさん!ダンデさんとバトル出来るなんて嬉しい!メンバーに自慢しちゃお!」 ひらひらふりふりのいかにもアイドルといった到底バトル向きでは無い格好のアンズが向こう側でキャピキャピと喜ぶのに、内心少し白けた気持ちで。 「じゃあよろしくお願いします!」 そういって出されたピカチュウを見て、ダンデは自分の連れてきたポケモンを間違えた事に気がついた。 流石にトーナメント用のポケモンを連れてくるのはダメだろうとタワー用に育て始めた2体と、いつ何時でも外す事のないリザードン。 前2体はピカチュウの一撃で沈んだ。 リザードンはそこからアンズのポケモン3体を倒し切ったが、結構ギリギリだったとダンデは冷や汗をかいた。 それこそダンデのポケモン2体を一撃で沈めてしまったピカチュウとアンズが視線をかわして、ごく自然に手を抜かなければ、勝てなかったかもしれない。 「やっぱダンデさんは強いですね!全然歯が立たなかった!」 「…どうして手加減を?」 握手する瞬間に囁くと、アンズは不思議そうに首を傾げて見せて、またバトルタワーに行ったらよろしくお願いしますねぇ、とひらひらと手を振って見せた。 答える気がないのだなとダンデはそのまま引き下がり、アンズがポケモンたちを回復させてスタッフが次の対戦者を入れるのを背に帰路に着いた。 ふと気になってアンズのバトル会の戦歴を調べてみると、当たり前のように考察サイトにたどり着いた。 なかなか興味深い考察サイトであったので帰りの電車でダンデはワクワクと読み耽った。 アンズのポケモンたちは見ただけでよく育てられているとわかるので、意図的に勝率をその辺りに調整していると察しがつくし、考察サイトの管理人も同意見のようだ。 管理人はジムチャレンジをしていた時のアンズのパーティーも紹介して、いわゆるガチパの考察も行っていた。 チャレンジ中もピカチュウは常にいた事から、おそらくダンデにとってのリザードンと同じ位置付けだろうとダンデも納得して、そのほかのポケモンはバラバラであるのでジムにあわせて育成したポケモンだろうこと、しかしながらアンズはチャンピオンへの挑戦権を争うトーナメントは辞退していてガチパはバトル会での出現率を考察材料にしている事、なかなか愛のある考察だと家に帰っても読み進めて、ダンデはトーナメント辞退を残念に思った。 アンズはダンデがチャンピオンだった時のジムチャレンジャーである。 トーナメントに彼女が出れば、結構良いところまで来たのではないか。 戦ってみたかった。 お互い、ガチパで。 数日後、アンズのバトルタワーの当番がきて、ダンデと同じように控える彼女にダンデは再度質問をした。 「どうして手加減をしたんだ?」 「あれ、まだその質問あたためてたんですか?無敵のダンデさんに手加減なんてとんでもないですよぉ、って言いたいところですけど、ダンデさんだからこそ手加減だってわかっちゃいますよねぇ」 わずかに困ったような顔で笑うアンズが、モンスターボールを撫でる。 「基本的に、初めてきた人はギリギリ負ける事にしてるんですけど、普段ならワンパンとか気をつけてるんですけど、ダンデさんの連れてる子なら強いし平気だろうと思って普通に当てちゃって、ごめんなさい。 よく見たら育成中の子だってわかったのに」 「なぜそんな事を?」 「え、勝てたら嬉しいじゃないですか?嬉しければ、また会いたいなぁって思ってもらえますし。 バトル会ってトーナメントじゃないんで勝敗は私には大事じゃなくて、楽しんでもらうためにバトルしてます」 「オレは本気のバトルが楽しいぜ」 口外に不満を訴えるダンデに、アンズがあはは、と声を上げた。 「ダンデさんだって、手加減メンバーでしたよ?」 そう言われてしまえばダンデとしても返す言葉がない。 アンズはモニターをチラリと見て、ふわふわのスカートを整えながら立ち上がった。 「私のお客さんが来たので、バトルしてきますね!」 「まだ連絡は来ていないが…」 途端に鳴り出す内線に、ね?と笑って軽やかに去っていくアンズに、ダンデは思わずモニターを見た。 程なくして現れたアンズがぴょんぴょんと跳ね、挑戦者に大きく手を振る。 少し彼女に興味が出て、ダンデは音声のボリュームを上げた。 「来てくれると思ってたよ!ありがとう!」 「アンズちゃんにバトル会でもライブでもないのに会えるチャンスだもん、有給取ってきたよ」 「来月から忙しい時期って言ってたよね?お仕事で疲れてても、ちゃんとご飯食べてね!」 「覚えててくれたんだねぇ!ちゃんと食べるよ!」 「当たり前だよ!じゃあ、バトルしよう。 レベル統一されてるの初めてでドキドキしちゃう!」 挑戦者もそれなりにバトル経験がありそうな試合運びだったが、アンズは相手の隙をうまくついてバフを重ね相手にデバフを送り、道具も使いこなしている。 バトルタワーのようなバトル施設に慣れた戦い方だなとダンデは感心し、生粋のバトルジャンキーの血がザワザワと騒ぎ立てるのを感じた。 アンズは相手をよく見ている、そしてまた、手加減をしてバトルを長引かせている。 挑戦者はおそらく拮抗していると思っているだろうが、アンズが視線を走らせてから、実際に指示を出すまでの速度、ポケモンがそれに従うまでの速度、どれをとってもあきらかにアンズの描いたシナリオの通りにバトルが進んでいる。 レベルが統一されていてもそうであるなら、アンズはアイドルにしては強い方という世間の評価よりずっと強い。 おそらくガラルでもトップに食い込む。 「アンズちゃん流石に強いね…!僕また負けちゃったよ…!」 「でも前回より指示も早くなってたし、ブリムオンのとくこう上げてきたよね?当たった時ちょっと焦っちゃったよ!楽しかった!またやろうね?でも先にライブだよね、探すからちゃんときてね」 両手で包み込むように挑戦者と握手をしたアンズがひらひらと手を振って、画面から見えなくなり、ダンデは音量を元に戻し、アンズのためにおいしいみずを冷蔵庫から取ってくる。 「戻りましたぁー!」 「おつかれさま、よかったら水、飲んでくれ」 「あ、ありがとうございます!」 アンズはペットボトルをくるりと回してからキャップを捻り、くんと匂いを嗅いだ。 ダンデは思わずわかるぞ、と言いそうになり大人しく口を噤む。 人からもらった物を警戒するかどうかは、どの程度知識や経験があるかが鍵になる。 そしてアイドルはそういう警戒が必要で、でもおそらく見せないように気をつけないといけない立場だ。 ダンデの前でしてしまったのはおそらく無意識でのことなので、指摘するとアンズは謝る。 謝って欲しいわけでもないダンデには、指摘しないという選択肢しかないのだ。 「オレもキミとバトルをしたくなる、見事なバトルだったぜ!手のひらの上ってやつだったな」 「見てくださったんですね、光栄です!あの人、ブリムオンがミブリムだった頃から応援してくれてるんです。 最初はバトルが好きじゃなくて、でも私に会いたいからって、ミブリム1体だけ連れて。 流石にそういう時は勝つしかないんですよね、あまりにも不自然ですから。 で、傷付いたミブリムを抱えて言うんです、やっぱりバトルは好きじゃないから、アンズちゃんに会いに来るのはこれが最後かなって。 それってすごく悲しいなって、思いません?バトルは楽しいものだって知ってほしいじゃないですか?でも私、どうしたらいいか分からなくて、ただ私はまたあなたとバトルしたいとしか言ってあげられなくて。 それでも、来てくれたんです。 何度も。 すごい人ですよね」 多分それは、キミがそう言ったからだ。 ダンデは話を聞きながらそう思った。 嫌いを我慢してまで会いに行ったアイドルにきっと今日のように両手で握られて、そんな事を言われたらそれはもう一度頑張るに足る事だ。 アンズはおそらく、今まで来てくれたファンを記憶している。 そうでなければ初めてきたファンには負けるなんて決まりは守れないから。 そして2度目以降のファンには、また来てくれたね、と声をかける。 途方もない人数のはずだが、ファンからすればたまらないだろうとダンデですら思う。 先ほどの挑戦者をダンデがバトル慣れしていると判断するほど、バトルタワーに登れるほど育てたのはつまり、アンズなのだ。 ダンデは言うまでもなくガラル全体を強くしたい。 そのために出来ることはなんでもやろうと思っているし、事実そうしてきた。 けれどアンズのようにはきっと出来ない。 ダンデとは違う道ながら、最終的には同じ場所に着くような存在なのかもしれないと、下に置いていた自分を反省して、そしてバトル中のアンズの眼がやはり見覚えのあるような気がして、また脳内で検索をかけたのだった。
次の【ポケモン剣盾考察】ダンデについて考える【ネタバレ】 こんにちは 44 です。 ネタバレするのでネタバレ嫌な方は記事を読まないことをおすすめします。 やってますか? 今回は今作ポケモン剣盾のキャラクター、ダンデについての記事です。 ダンデとは何者か 公式では下記のように説明されています。 ガラル地方の現チャンピオンで、ポケモンバトルの公式戦において、無敗の実力を持っている。 弟のホップについては「」の記事をどうぞ すぐに道に迷うので、相棒のリザードンがサポートしてくれて何とかやってるというおちゃめな一面もあります。 ユニフォームナンバーは1番。 チャンピオンという意味での1という数字と、サッカーをイメージした服装からゴールキーパー、守護神という側面もあるでしょう。 公式の発言にも、サッカーをイメージしているといわれているためその点については間違いありません。 今作のポケモン剣盾は、システムやポケモンのテーマとして「最強」を掲げており、ストーリー軸では「憧れ」をテーマとしていますが、その両方を持ったキャラクターだと言えるでしょう。 また、彼の羽織るマントにはたくさんのスポンサー企業のロゴが入っていますが、これはガラル地方が「生きている都市」のような雰囲気を持たせるためだそうです。 ポケモンでは嘘っぽくならないようにするため、各建物にここにはどんな会社が入っているのか?というような具体的なイメージまで固めて作っているそうです。 いつもリザードンと一緒 リザードン大好きということを強調しています。 そして、ダンデのセリフにはかなり「最強」というワードが入ってきますから、本作のテーマを象徴するキャラクターであることは間違いありませんね。 「ガラルのみんなを強くする」というのがダンデの夢だそうです。 ちなみにダンデの最初の言葉については、徹底的に「あと1行短くできないか」とブラッシュアップしまくったセリフを用意しているそうですよ。 家族思い また、下のシーンもダンデの人柄をよく表しているところでしょう。 ホップの身長をジャストで当てるというあたりは、非常に弟思いの人物であることがうかがい知れますね。 また、3cm伸びるくらいの間会っていないということも暗示しています。 つまり、非常に忙しい人物なのでしょう。 人は忙しいとき余裕をなくすこともありますよね。 それでもきちんと家族のことをないがしろにせず、大切に思っているという「真心の愛」が溢れる人物として描かれています。 ダンデのもつ意味・花言葉 日本語においてはダンデ=Dandeとして登場しますが、英語版においてはLeonという名で登場します。 このことから明らかに「ダンデライオン=たんぽぽ」を冠した名前であることが推測できますね。 たんぽぽとはダンデっぽくない可愛らしい感じがしますが、その花言葉には• 真心の愛• 別離 といったものがあります。 発売前はこの中の「神託」や「別離」といったところからダンデ黒幕説が浮上していましたね。 裏設定で実は黒幕でしたなんてことはなさそうです。 万が一そうだったら子供たちはショックを受けるかもしれませんから。 そもそも「子供たちが憧れるような大人」をイメージして創造されたキャラクターなので、それが黒幕ってことはありえないでしょう。 たんぽぽの花言葉は真心の愛をもって誠実に世界や登場人物たちに向かい合うダンデにぴったりな内容です。 ダンデには真心の愛と誠実さを持った大人に育ってほしいという子供たちへのメッセージが込められているのではないかと思います。 Leonとは Leonはギリシャ語、ラテン語において「ライオン」を意味します。 ちなみに余談ですがLeonはヒロシのピカチュウ(Sparky)の日本語名でもありますし、過去作のキャラクターにもいた名前でもあります。 人気の名前ですね。 ライオンといえばユニコーンと対になるシンボルですよね。 ライオンはイギリス王家のシンボルであり、ユニコーンはスコットランド王家のシンボルになります。 ライオンは世界中の支配者の紋章に使われますが、それについてはもとは古代メソポタミア神話におけるエンキとエンリルを表す、という説があります。 ユニコーン(ポニータ。。。 )に鎖が巻かれているのはイギリスにおいては危険な生物という認識のためで、ライオンはイギリスを守っているという意味があるので、守護神というダンデの解釈がかっちり当てはまります。 ちなみに僕らの国日本においても、皇室の古い紋章は獅子と一角獣ですし、京都御所の天皇の座の前にも獅子と一角獣がいます。 ユダヤ教でもキリスト教でもイスラム教でもないこの日本との繋がりは一体なんなのかと思うかもしれません。 日ユ同祖論なんてのもあるくらいなので何かしらつながりがある気もしますが、あまり深掘りはしません。 気になる方は話半分で別記事でどうぞ。 「」 リザードンポーズの意味 リザードンポーズは単純にリザードンの三本指をまねたポーズ、でしょうがリアルで誤って使うとかなり危険なポーズかもしれません。 手の甲を相手に向けてするとイギリスやオーストラリアなどイギリスの植民地下にあった国々において「Fxxk You」と同じ意味の裏ピースサインとなり、最悪撃ち殺される可能性すらあるとか。 ヒップホップで出てくるポーズですね。 ちなみに韓国の人が日本に向けてこのポーズをして日本を侮辱している、という説が調べると出てくるんですが、完全にガセネタなので信じないようにしましょう。 といっても「チョッパリピース」なる名称がつけられ、それを信じる大衆が増えたことによって本来ガセネタであったジェスチャーが本来の意図とは全く別の「侮辱」という明確な意味を付けられているので、ネットミームとして真実になってしまいつつあります。 リザードンポーズは手のひらを相手に向ける形。 裏ピースにならないようにしましょう。 まとめ:【ポケモン剣盾考察】ダンデについて考える【ネタバレ】 いかがでしたでしょうか。 ダンデのように真心の愛と誠実さを持って向き合ったとき、最強になるというメッセージが込められているのかもしれません。 ダンデはローズやオリーブ、ビート第一形態のように行き過ぎて悪になってしまうということもなく、常に誠実に、愛をもってガラル地方に向き合っていましたよね。 誰かを悪者にして敵をつくらなければならない善悪の軸ではなく、愛と誠実さの軸で向き合うことが大切なのかもしれません。 今作のポケモンのストーリー、あなたはどう思いましたか? では、ポケモン剣盾楽しみましょう! ちなみにクリア後にダンデの家でスペシャルなヒトカゲが貰えるので、まだもらってない人は行ってみましょう! 長時間座ってポケモンやってると腰やお尻が痛くなる方は、ゲーミングチェアがコスパ最強でおすすめです。 このブログでは毎日更新で「過去の自分が知りたかったこと」をジャンル問わず書いているので、もしあなたの役にも立ちそうなことを書いていたらまた読みに来てください。
次の俺がバトルタワーオーナーになって数日が経過した。 バトルタワーはポケモンバトルの猛者が集まる活気溢れる場所だ。 たまにユウリも顔を覗かせるが相変わらず忙しいようでバトルもまともに出来ない。 たまにホップが来て俺に挑んでくる。 ポケモン博士を目指し始めてバトルはもうやらないのかと少し残念だったが、この調子ではまだしばらく楽しめそうだ。 さて、話を戻そう。 俺はとある仕事の名目でヨロイ島へとやって来た。 「お久しぶりです、マスタード師匠」 「約束の時間より大幅に遅れとるぞ」 鋭いツッコミが心に刺さる。 方向音痴なのは自覚しているのだが……いい加減なんとかしないと格好がつかない。 「まぁ、今に始まったことではないか。 して、用事とはなんじゃ」 「噂程度ですが、ポケモントレーナーのレッドとグリーンがここに来ていると聞きまして……」 「あの2人か。 実力者とは聞いておったが、やはりずば抜けておったぞ。 儂の修行を最短記録でクリアし冠雪原に向かいおった」 ヨロイ島ではマスタードによる修行があり、現時点でのジムトレーナー全員はここで修行をした経験がある。 もちろんダンデも例外ではない。 晴れて修行完了を得た暁には、さらに過酷な環境が待ち受ける冠の雪原に向かうことが可能になる。 それでも危険度はワイルドエリアと比にならない。 なかには命を落としたとの事例もあり最近では滅多に入ろうとする者はおらず、自殺志願者とまで言われる始末だ。 「2人の話をするということは、雪原に向かうということじゃな?」 「はい。 俺はまだ見ぬ壁と戦いたい、そう思っています」 「ふむ……止める理由もなかろう。 お前さんなら生きては帰ってこれるからの」 マスタードが懐から取り出したのは雪原行きの切符だった。 俺は切符を受け取り礼を言うと少年のような期待を胸に走り出した。 「駅は反対じゃ、馬鹿者!」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 冠の雪原に到着したのは翌日のことだった。 雪原と呼ばれる以上、冬はもちろん夏でも少なからず吹雪いている。 夏でも雪が見られ、まだ天候によっては比較的安全な時は観光地としても有名だ。 だがーーダンデが降り立った今日は雪こそ残っているものの吹雪いてはいない快晴だった。 この珍しい状況に今日はなにか不吉なことが起きるのではないかと、ロトムフォンを通じニュースで報道された。 「不吉なことか……俺には相棒のリザードンとポケモンがいるから大丈夫だ」 決意を新たに白銀の世界に一歩を踏み出す。 雪原はこれが初入国であり、まだ見ぬ未知に胸はざわざわしていた。 もちろん、一番の目的はレッドとグリーンに会うことーーそれともう1つ、幻のポケモンに出会うことだ。 無論、出会える確率は低すぎる。 加え、広大な雪原に看板や道案内は一切なく、ポケモンの姿も見れない。 「妙だな……氷タイプのポケモンぐらい見えてもいいと思うが」 吹雪ならまだしも……いや、この異常気象だからこそ警戒しているのか。 歩き始めて数時間、体力はまだあるが一向に2人は見つからない。 まぁ、ほぼ不可能に近いことをしているのだから当たり前か。 もしかしたら基地の方に戻っているかもしれない、そう思い無線を入れるが謎のノイズが走ったあとすぐに接続が切れる。 まだ届く範囲だとは思うがーーもしくは方向音痴が出てきたか。 その時、突風がダンデを襲った。 視界が真っ白に覆われ身構える。 やがて晴れた先には大きな神殿があった。 「……いよいよ怪しくなってきたな」 幻影か、それともーーだがこのタイミングとは出迎えてくれているみたいだ。 おそるおそる階段に足をかける。 どうやら幻影ではなく本当にここに存在するようだ。 ダンデは臆することなく神殿内を突き進んでいく。 内部はいくつもの分かれ道があるうえに正解もない。 正に己を信じろ、というわけだな。 神殿内を探索しているとダイマックスバンドが反応した。 それを頼りに更に進んでいくと大きな広間に辿り着く。 壁画にはたくさんの見たことのないポケモンのようなものが描かれている。 陸と海と宙で三つ巴する者達、宇宙を創造する者……改めて世界は広いと感じる。 夢中で壁画を眺めているとずん、と地面が沈むような音がした。 同時に地面がひび割れていきダイマックスエネルギーが溢れ出す。 「なんだ?!」 困惑するのも束の間、奥に眠っている氷の塊が動き出す。 氷から出てきた龍ーーキュレムはダンデを追い返すように咆哮を上げる。 溢れ出すダイマックスエネルギーがキュレムを包み込み、両サイドに2匹のポケモンの姿が浮かび上がる。 キュレムに重なりあうと、キュレムは右半分は電気が走る黒い装甲、左半分は炎を纏う白い装甲に包まれ、尻尾からは冷気を吹き出している。 文献でキュレムがゼクロムとレシラムを取り込むとそれぞれブラックキュレム、ホワイトキュレムに変わると読んだとこはあるが、見た限り両方を宿しているように見える。 「行け、リザードン!」 相棒のリザードンを呼び出し対面する。 どのような動きをしてくるか分からないから慎重に行かなければ。 ダブルキュレムは尻尾を砲台のように構え、竜巻の吹雪ーー【こごえるせかい】を放つ。 「かえんほうしゃで迎え撃て!」 相性では勝っているーーしかし、その威力は凄まじいものだった。 相打ちでお互いの技が消滅する。 その間にもダブルキュレムは【クロスサンダー】と【クロスフレイム】を構えていた。 「避けろ!」 先に放たれたクロスサンダーを空を飛び避けきるも、続けざまに襲うクロスフレイムはリザードンの目前まで迫っていたーー 「ハイドロカノン!」 高圧縮された水が横入りしクロスフレイムを消し去る。 ダンデの視線の先には、探していた2人が立っていた。 「ガラルチャンピオンがなんでこんなところに?」 「とにかく今は加勢だ。 フシギバナ、ハードプラント!」 グリーンに応えフシギバナは地面を揺すると、ダブルキュレムの足元から太い蔦が生え縛りつける。 しばらくもがき強引に蔦を引きちぎり、再び尻尾を構える。 しかし、今度は氷だけでなくダイマックスエネルギーも集約されていくのが感じられた。 「ダイマックス技だ、気を付けろ!」 ダブルキュレムはダイマックス技ーー否、キョダイマックス技の【キョダイトウケツ】を放つ。 リザードンは【かえんほうしゃ】で迎え撃ち、カメックスはフシギバナとともに【まもる】体勢に入った。 しかし勢いは止まらず2つの技を打ち消し3匹はまともに喰らってしまった。 リザードンとカメックスにはダメージが少ないが…… 「痛いのを貰ったけど大丈夫だ」 高耐久もありまだまだ行けると言うようにフシギバナは声を上げる。 安心も束の間、ダンデとレッドは場に違和感を覚える。 まるで凍てつく空気が漂うようなーーそれは元からだがより冷たくなったような感じだ。 氷のダイマックス技【ダイアイス】は天候をあられに変える。 だがあられは降っていない。 ということはフィールドが展開されたというのが妥当だ。 氷のフィールドなんて聞いたことないが、伝説のポケモンなら未知のフィールドを展開させるのも理解出来ない訳じゃない。 名義として【フリーズフィールド】と名付けるとして、どんな効果があるか分からないのが厄介だ。 「これ以上のダメージは遠慮したいな」 「ああ。 ダンデはキョダイマックスを頼む」 「分かった」 レッドとグリーンはメガバンドを示し、ダンデはリザードンをボールに戻す。 「「メガシンカ!」」 「キョダイマックス!」 3匹がそれぞれの咆哮を上げ、メガフシギバナとメガカメックスにメガシンカし、リザードンはキョダイマックスを果たす。 「ラスターカノン!」 「ギガドレイン!」 「ダイドラグーン!」 3つの技が一斉に襲いかかる。 ダブルキュレムは【クロスフレイム】と【クロスサンダー】で迎え撃つも、キョダイゴクエンの火の鳥が追加ダメージを、ギガドレインで体力を吸いとられていく。 「はどうだん!」 メガカメックスのはどうだんが直撃し体勢が崩れるも、すぐさま尻尾を凪ぎ払い【ワイドブレイカー】で全体の反撃に出る。 「俺がサポートしてやるから、2人で決めろ!フシギバナ、じしんだ!」 メガフシギバナの踏み込みと同時に大きな揺れがキュレムを襲う。 リザードンには効果がなく、メガカメックスは効果は今一つなため痛手はない。 レッドとダンデは目を合わせ同時に叫んだ。 「ハイドロカノン!」 「キョダイゴクエン!」 炎と水の合わせ技がダブルキュレムに直撃、決め手となりゆっくりと崩れた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 3人は神殿を抜け出すことに成功し、一段落着いた。 「ところで、お二人はどうして俺がいることを?」 「元々神殿にはいたんだが、声が聞こえたんだ」 「声?」 「助けてって声がね。 急いで向かったら君がいたってこと」 声ーー俺はそんな言葉発してない。 では一体誰が? その時、目の前に発光する何かが3人の前に降り立つ。 思わず腕で顔を隠すが、合間からそれを確認した。 鹿のような出で立ちに緑の王冠を被ったポケモンを。 数秒の間3人を見つめ、1度瞬きすると瞬間移動でその場から消え去った。 「……この声だったよな」 「ああ」 「なるほどな」 3人は納得した様子だった。 どうやらテレパシーのようなもので頭に直接流れてきたようだ。 『まだ来るべきではない』 警告のように言われたその言葉を飲み込み、3人は下山を始める。 「そうだ、レッドさん。 1つお願いがあるのですが……」 ダンデのお願いをレッドは快く引き受けた。 冠の雪原で氷タイプの伝説というとキュレムかレジギガスぐらいしか出てこなかったので、今回はキュレムさんにお願いしました。 ・ダブルキュレム キュレムがゼクロムとレシラムの両方を取り込んだ姿。 つうじょうは片方の融合のみだが、ダイマックスエネルギーにより3体融合を果たす。 しかし、エネルギーを融合に使用するためダイマックス固有の巨大化はしない。 【ほのお】【でんき】 【キョダイトウケツ】 【こごえるせかい】のみを変化させるキョダイマックス技。 【フリーズフィールド】を展開させる。 威力110。 【フリーズフィールド】 凍てつく空気を漂わせる。 場にいるポケモンにこおりタイプを追加させ、追加されたポケモンは素早さを2段階下げる。 元々こおりタイプのポケモンは技の威力が1. 2倍になるが発動の度体力が少し削られる。 フリーズフィールドの効果によってダブルキュレムはこおりタイプが追加される感じです。 正直強い弱いはいまいち分かってない。 次で最後になると思います。
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