一 「うッふふ。 まさか、うしろを見せたんじゃなかろうの」 「ところが 師匠 ( ししょう )、笑わねえでおくんなせえ。 忠臣蔵の 師直 ( もろのお )じゃねえが、あっしゃア急に命が惜しくなって、はばかりへ行くふりをしながら、 褌 ( ふんどし )もしずに逃げ出して来ちまったんで。 ……」 「何んだって。 逃げて来たと。 ……」 「いい若え者が何て 意気地 ( いくじ )のねえ話なんだ。 どんな体で責められたか知らねえが、相手はたかが女じゃねえか。 女に負けてのめのめ逃げ出して来るなんざ、当時 彫師 ( ほりし )の名折ンなるぜ」 「ところが師匠、お前さんは相手を見ねえからそんな豪勢な口をききなさるが、さっきもいった通り、女はちょうど師匠が前に 描 ( か )きなすった、あの 北国五色墨 ( ほっこくごしきずみ )ン中の、 てっぽうそっくりの体なんで。 ……」 「結構じゃねえか。 てっぽうなんてものは、こっちから探しに行ったって、そうざらにあるもんじゃねえ。 憂曇華 ( うどんげ )の、めぐりあったが百年目、たとえ腰ッ骨が折れたからって、あとへ引くわけのもんじゃねえや。 亀吉はまだ、三十には二つ三つ 間 ( ま )があるのであろう。 色若衆 ( いろわかしゅう )のような、どちらかといえば、職人向でない 花車 ( きゃしゃ )な体を、きまり悪そうに縁先に小さくして、 鷲 ( わし )づかみにした手拭で、やたらに顔の汗を 擦 ( こす )っていた。 歌麿は「 青楼 ( せいろう )十二 時 ( とき )」この方、版下を 彫 ( ほ )らせては 今古 ( こんこ )の名人とゆるしていた竹河岸の 毛彫安 ( けぼりやす )が、 森治 ( もりじ )から出した「 蚊帳 ( かや )の 男女 ( だんじょ )」を彫ったのを最後に、突然死去して間もなく、亀吉を見出したのであるが、若いに似合わず熱のある仕事振りが意にかなって、ついこの秋口、 鶴喜 ( つるき )から 開板 ( かいはん )した「美人島田八景」に至るまで、その後の 主立 ( おもだ )った版下は、殆ど亀吉の 鑿刀 ( さくとう )を 俟 ( ま )たないものはないくらいであった。 一昨年の 筆禍 ( ひっか )事件以来、人気が半減したといわれているものの、それでもさすがに歌麿のもとへは各版元からの註文が殺到して、当時売れっ子の 豊国 ( とよくに )や 英山 ( えいざん )などを、遥かに 凌駕 ( りょうが )する羽振りを見せていた。 きょうもきょうとて、歌麿は起きると間もなく、朝帰りの威勢のいい 一九 ( いっく )にはいり込まれたのを 口開 ( くちあけ )に 京伝 ( きょうでん )、 菊塢 ( きくう )、それに版元の和泉屋市兵衛など、入れ代り立ち代り顔を見せられたところから、近頃また思い出して描き始めた金太郎の下絵をそのままにして、何んということもなくうまくもない酒を、つい付合って重ねてしまったが、さて飲んだとなると、急に十年も年が若くなったものか、やたらに昔の 口説 ( くぜつ )が恋しくてたまらなくなっていた。 しかも亀吉から前夜 浅草 ( おくやま )で買った 陰女 ( やまねこ )に、手もなく敗北したという話の末、その相手が、 曾 ( かつ )て自分が十年ばかり前に 描 ( か )いた「 北国五色墨 ( ほっこくごしきずみ )」の女と、寸分の相違もないことまで聞かされては、歌麿は、若い者の意気地なさを 託 ( かこ )つと共に、不思議に躍る 己 ( おの )が胸に手をやらずにはいられなかった。 「亀さん」 しばし、じっと膝のあたりを見詰ていた歌麿は、突然目を上げると、 引 ( ひ )ッ 吊 ( つ )るように口をゆがませて、亀吉の顔を見つめた。 「へえ。 「そう驚くにゃ当るまい。 おいらを、お前さんの買った陰女に会わせてくれというだけの話じゃねえか」 「 冗談 ( じょうだん )いっちゃいけません。 いくら何んだって師匠が陰女なんぞと。 ……」 「あッはッは。 つまらねえ遠慮はいらねえよ。 こっちが何様じゃあるめえし、陰女に会おうがどぶ女郎に会おうが、ちっとだって、驚くこたアありゃしねえ」 「それアそういやそんなもんだが、あんな女と会いなすったところで、何ひとつ、 足 ( た )しになりゃアしやせんぜ」 「足しになろうがなるめえがいいやな。 おいらはただ、お前の 敵 ( かたき )を討ってやりさえすりゃ、それだけで 本望 ( ほんもう )なんだ」 「あっしの敵を討ちなさる。 昔の師匠ならいざ知らず、いくら達者でも、いまどきあの女を、師匠が こなすなんてことが。 「へえ」 「何んでもいいから 石町 ( こくちょう )の 六 ( む )つを聞いたら、もう一度ここへ来てくんねえ。 勝負にならねえといわれたんじゃ歌麿の 名折 ( なおれ )だ。 飽くまでその陰女に会って、お前の敵を討たにゃならねえ」 おめえの敵と、口ではいっているものの、歌麿の 脳裡 ( のうり )からは、亀吉の影は 疾 ( と )うに消し飛んで、十年前に、ふとしたことから 馴染 ( なじみ )になったのを縁に、 錦絵 ( にしきえ )にまで描いて売り出した、どぶ裏の 局女郎 ( つぼねじょろう ) 茗荷屋 ( みょうがや ) 若鶴 ( わかづる )の、あのはち切れるような素晴らしい肉体が、まざまざと力強く浮き出て来て、何か思いがけない 幸福 ( しあわせ )が、今にも眼の前へ現れでもするような嬉しさが、次第に胸を 掩 ( おお )って来るのを覚えた。 「師匠、そいつア本当でげすかい」 「念には及ばねえよ」 「これアどうも、飛んだことになっちまった」 亀吉は、 間伸 ( まのび )のした自分の顔を、二三度くるくる撫で廻すと、多少興味を感じながらも、この降って 湧 ( わ )いたような結果に、 寧 ( むし )ろ当惑の色をまざまざと浮べた。 が、歌麿に取っては、亀吉がどう考えているかなどは、今は少しの 屈托 ( くったく )でもないのであろう。 断えず込み上げて来る好色心が、それからそれへと 渦 ( うず )を巻いて、まだ高々と照り渡っている日の色に、 焦慮 ( しょうりょ )をさえ感じ始めたのであった。 「で、亀さん」 「へえ」 「女はいって、え、いくつなんだ」 「二十四だとか、五だとかいっておりやした」 「二十四五か。 そいつア おつだの。 男には年がねえが、女は何んでも三十までだ。 さっきお前さんのいった 北国五色墨 ( ほっこくごしきずみ )の若鶴という女も、ちょうど二十五だったからの、うッふッふ」 歌麿の胸には、若鶴の肌が張り附きでもしているような緊張した快感が大きな波を打っていた。 大方 ( おおかた ) 河岸 ( かし )から 一筋 ( ひとすじ )に来たのであろう。 おもてには威勢のいい 鰯売 ( いわしうり )が、江戸中へ 響 ( ひび )けとばかり、洗ったような声を振り立てていた。 二 今まで五重塔の 九輪 ( くりん )に、最後の光を残していた夕陽が、いつの間にやら消え失せてしまうと、あれほど人の 行 ( ゆ )き 来 ( き )に 賑 ( にぎ )わってた浅草も、たちまち 木 ( こ )の 下闇 ( したやみ )の底気味悪いばかりに陰を 濃 ( こ )くして、襟を吹く秋風のみが、いたずらに 冷々 ( ひえびえ )と 肌 ( はだ )を 撫 ( な )でて行った。 燃えるような 眸 ( まなざし )で、 馬道裏 ( うまみちうら )の、路地の角に 在 ( あ )る柳の下に 佇 ( た )ったのは、 丈 ( せい )の高い歌麿と、小男の亀吉だった。 亀吉は麻の葉の手拭で、 頬冠 ( ほおかぶ )りをしていた。 「じゃア 師匠 ( ししょう )、夢にもあっしの 知合 ( しりあい )だなんてことは、いっちアいけやせんぜ。 どこまでも 笊屋 ( ざるや )の 寅 ( とら )に聞いて来た、ということにしておくんなさらなきゃ。 お前のような弱虫の名前を出しちゃ、こっちの 辱 ( はじ )ンならア」 「ちぇッ、面白くもねえ。 もとはといやア、あっしが負けて来たばっかりに、師匠の 出幕 ( でまく )になったんじゃござんせんか」 「いいから置いときねえ。 敵 ( かたき )はとってやる」 「長屋は奥から三軒目ですぜ」 「 合点 ( がってん )だ。 名前はお 近 ( ちか )。 亀吉が頬冠りの下から、闇を 透 ( すか )して見ている中を、まっしぐらに奥へ消えて行って歌麿は、やがて、それとおぼしい長屋の前で足を 停 ( と )めたが、間もなく内から雨戸をあけたのであろう。 ほのかに差した 明 ( あか )りの前に、 仲蔵 ( まいづるや )に似た歌麿の顔が、 写 ( うつ )し 絵 ( え )のように黄色く浮んだ。 「おや、何か御用ですかえ」 それは 正 ( まさ )しく、お近のお袋の声だった。 「ちっとばかり、お近さんに用ありさ。 「いけねえ。 師匠はやっぱり 慣 ( な )れている。 中へはいった歌麿は、 如才 ( じょさい )なく、お袋に 土産物 ( みやげもの )を渡すが否や、いっぱしの 馴染 ( なじみ )でもあるかのように、早くも三畳の 間 ( ま )へ上り込んでしまったが、それでもさすがに気が差したのであろう、ふところから手拭を取出して、 額 ( ひたい )ににじんだ汗を拭くと、立ったまま小声で訊ねた。 「お近さんは留守かい」 「いやだよ。 そんな大きな眼をしてながら、よく御覧なね。 その 屏風 ( びょうぶ )の向うに、 芋虫 ( いもむし )のように寝てるじゃないか」 「芋虫。 昼間飲んだ酒に肥った 己 ( おの )が身を持て 余 ( あま )していると見えて、 真岡 ( もうか ) 木綿 ( もめん )の 浴衣 ( ゆかた )に、細帯をだらしなく締めたまま 西瓜 ( すいか )をならべたような乳房もあらわに、ところ狭きまで長々と寝そべっている姿が、歌麿の目に 映 ( えい )じた。 「お近さん」 「え。 「よく内にいたの」 「お前さん、誰さ」 「ゆうべおめえに可愛がってもらった、あの亀吉の伯父だ」 「え、あの人の伯父さんだって」 「そうよ。 そんなにびっくりするにゃ当らねえ。 なぜおれの甥を可愛がってくれたと、物言いをつけに来た 訳 ( わけ )でもなけりゃ、遊んだ銭を返してもらいに来た訳でもねえんだ。 おまえに、ちっとばかり頼みがあって、わざわざ 駐春亭 ( ちゅうしゅんてい )の料理まで持って出かけて来たくれえだからの」 「おや、何んて 酔狂 ( すいきょう )な人なんだろう。 あたしのような者に、頼みがあるなんて。 「おかしいか」 「そうさ。 あたしゃお前さんが思ってるほど、 頼 ( たよ )りになる女じゃあないからねえ」 「うん、その頼りにならねえところを見込んで頼みに来たんだ。 「おや、それアお前さん、二分じゃないか」 お近は手にしていた 煙管 ( きせる )の 雁首 ( がんくび )で、なま新らしい二分金を、 手許 ( てもと )へ 掻 ( か )きよせたが、多少気味の悪さを感じたのであろう。 手には取らないでそのまま金と歌麿の顔とを、四分六分にじっと見つめた。 「どうだの。 ひとつ、頼みを聞いちゃくれめえか」 「さアね。 大籬 ( おおまがき )の 太夫衆 ( たゆうしゅう )がもらうような、こんな御祝儀を見せられちゃ、いやだともいえまいじゃないか。 だがいったい、見ず知らずのお前さんの、頼みというのは何さ。 あたしの体で間に合うことならいいが、観音様の坊さんを頼んで、 鐘搗堂 ( かねつきどう )の 鐘 ( かね )をおろして借りたいなんぞは、いくら御祝儀をもらっても、 滅多 ( めった )に承知は出来ないからねえ」 「 姐 ( ねえ )さん、おめえ、なかなか 洒落者 ( しゃれもの )だの」 「おだてちゃいけないよ」 「おだてやしねえが、観音様の鐘は気に入った。 だが、おいらの頼みはそんなんじゃねえ。 観音様の鐘のように大きいおめえの体を、 二時 ( ふたとき )ばかりままにさせてもらいてえのよ」 「あたしの体を。 噂 ( うわさ )に 違 ( たが )わず素晴らしいその鉄砲乳が 無性 ( むしょう )に気に入ったんだ。 年寄だけが不足だろうが、さりとて何も、おめえを 抱 ( だ )いて寝ようというわけじゃねえ。 ただおめえが、おいらのいう通りにさえなってくれりゃ、それでいいんだ。 ひとつ、色よい返事をしちゃアくれめえか」 ぐっと 一膝 ( ひとひざ )乗り出した歌麿の眼は、二十の男のような情熱に燃えて、ともすれば相手の返事も待たずに、その釣鐘型の乳房へ、手を 触 ( ふ )れまじき様子だった。 「ほほほ。 改 ( あらた )まっていうから、どれほど 難 ( むず )かしい頼みかと思ったら、いっそ気抜けがしちまったよ。 二時 ( ふたとき )でも 三時 ( みとき )でも、あたしの体で 足 ( た )りる用なら気のすむまで、ままにするがいいさ」 「うむ、そんなら、承知してくれるんだな」 「あいさ、承知はするよ。 だがお前さん、抱いて寝ようというんでなけりゃ、どうする気なのさ。 まさかあたしのこの乳を、切って取ろうというんじゃあるまいね」 「うふふ、つまらぬえ心配はしなさんな。 命に 別条 ( べつじょう )はありゃアしねえ。 ただおめえに、そのまま 真 ( ま )ッ 裸 ( ぱだか )になってもらいてえだけさ」 「ええ裸になる。 今更きまりが悪いもなかろう。 あたしの体は 枕絵 ( まくらえ )のお手本にゃならないから、いっそ骨折損だよ」 しかし、そういいながらも、ぬっと立上った女は、枕屏風を向うへ押しやると、いきなり細帯をするすると 解 ( と )いて、歌麿の前に、 颯 ( さっ )と 浴衣 ( ゆかた )を 脱 ( ぬ )ぎすてた。 「さ、 速 ( はや )くどッからでも勝手に 描 ( か )いたらどう」 おそらく昼間飲んだ酒の 酔 ( よい )を、そのまま寝崩れたためであろう。 がっくりと根の抜けた島田 髷 ( まげ )は大きく横に 歪 ( ゆが )んで、 襟足 ( えりあし )に乱れた毛の下に、ねっとりにじんだ 脂汗 ( あぶらあせ )が、 剥 ( は )げかかった白粉を 緑青色 ( ろくしょういろ )に光らせた、その 頸筋 ( くびすじ )から肩にかけての 鮪 ( まぐろ )の背のように盛り上った肉を、腹のほうから押し上げて、 ぽてりと二つ、憎いまで張り切った乳房のふてぶてしさ。 しかも胸の山からそのまま流れて、腰のあたりで一度大きく波を打った肉は、膝への線を割合にすんなり見せながら、体にしては小さい足を内輪に茶色に焼けた畳表を、やけに踏んでいるのだった。 「どうしたのさ、お前さん、早く描かなきや、 行燈 ( あんどん )の油が 勿体 ( もったい )ないじゃないか」 が、歌麿は腰の矢立を抜き取ったまま、視線を 釘附 ( くぎづけ )にされたように、お近の胸のあたりを見つめて動こうともしなかった。 「ちぇッ、なんて意気地がない人なんだろう」 そういって女が苦笑した 刹那 ( せつな )だった。 入口の雨戸が開いたと思う間もなく「おや、これは旦那」というお袋の声が聞えたが、すぐに頭の上で、追っかぶせるように、「こいつアめずらしい、歌麿だな」という皮肉な男の声が、いきなり歌麿の 耳朶 ( じだ )を 顫 ( ふる )わせた。 「あッ。 逃げるにゃ及ばねえ」 「へえ。 「か、 駕籠屋 ( かごや )。 か、 茅場町 ( かやばちょう )だ。 三 自分の家の畳の上に坐って、 雇婆 ( やといばばあ )の 汲 ( く )んでくれた水を、茶碗に二杯立続けに飲んでも、歌麿は容易に 動悸 ( どうき )がおさまらなかった。 あの顔、あの声、あの足音。 おもての雨戸の 心張 ( しんばり )を、固くして、誰が来ても、決して開けちゃならねえぞ」 「はい」 「酒だ。 それから、速く床をひいてくんねえ」 まごまごしている雇婆を 急 ( せ )き 立 ( た )てて、 冷 ( ひや )のままの酒を、ぐっと一息に 呷 ( あお )ると、歌麿の巨体は 海鼠 ( なまこ )のように夜具の中に縮まってしまった。 「ああいやだ。 が、そうすればする程、 却 ( かえ )ってあの鬼のような金兵衛の顔は、まざまざと夜具の中の闇から、歌麿の前に迫るばかりであった。 「もう二度と、 白洲 ( しらす )の 砂利 ( じゃり )は 踏 ( ふ )みたくねえ」 歌麿は誰にいうともなく、 拝 ( おが )むようにこういって、 掌 ( て )を合せた。 その記憶は、五十日の 手錠 ( てじよう )の刑に 遭 ( あ )った、あの一昨年の一件に外ならなかった。 つばくろの白い腹がひらりとひとつ返る度毎に、空の色が澄んでくる、五月の 半 ( なか )ばだった。 前夜 画会 ( がかい )の 崩 ( くず )れから、 京伝 ( きょうでん )、 蜀山 ( しょくさん )、それに 燕十 ( えんじゅう )の四人で、深川 仲町 ( なかちょう )の 松江 ( まつえ )で飲んだ酒が 醒 ( さ )め切れず、二日酔の頭痛が、やたらに頭を重くするところから、おつねに附けさせた迎い酒の一本を、寝たままこれから始めようとしていたあの時、格子の 手触 ( てざわ )りも荒々しく、案内も乞わずに上って来た家主の治郎兵衛は、歯の根も合わぬまでに、あわてて歌麿の枕許へにじり寄った。 「これはどうも。 「大層お早くから、どんな御用で。 「へえ」 「お前さん、お気の毒だが、これから直ぐに、わたしと一緒にお奉行所まで、行ってもらわにゃならねえんだが。 ……」 「奉行所へ」 「うむ」 「何かの証人にでも 招 ( よ )ばれますんで。 お前さんのことで、今朝方、自身番から 差紙 ( さしがみ )が来たんだ」 「え、あっしのことで。 「名主さんや月番の人達も、みんなもう、自身番で待ってなさる。 どんな御用でお前さんが招ばれるのか、そいつはわたし達にも 判 ( わか )らないが、お 上 ( かみ )からのお呼び出しだとなりゃア、どうにも仕方がない。 ……」 「へえ。 生れて五十一年の間、 悪所通 ( あくしょがよ )いのしたい 放題 ( ほうだい )はしたし、 普 ( なみ )の道楽者の十倍も余計に女の 肌 ( はだ )を知り 尽 ( つく )して来はしたものの、いまだ、ただの一度も 賽 ( さい )の 目 ( め )を争ったことはなし、まして人様の物を、 塵 ( ちり )ッ 端 ( ぱ )一本でも盗んだ覚えは、露さらあるわけがなかった。 さればこれまで、奉行所はおろか、自身番の土さえまったく踏んだことがなく、わずかに一度、落した大事な 莨入 ( たばこいれ )を、田町の自身番からの差紙で、取りに来いといわれた時でさえ、病気と偽って弟子の秀麿を代りにやったくらい。 好きなところは吉原で、 嫌 ( きら )いなところはお役所だといつも 口癖 ( くちぐせ )のようにいっていたから察しても、 大概 ( たいがい )その心持は、わかり過ぎるほどわかっている筈だった。 その歌麿に、ところもあろうに、町奉行からの差紙は、何んとしても解せない大きな 謎 ( なぞ )であった。 歌麿は、夢に夢見る 心持 ( ここち )で胸を暗くしながら、家主の指図に従って、落度のないように支度を整えると、人に顔を見られるのさえ苦しい思いで、まず自身番まで出向いて行った。 自身番には、治郎兵衛のいった通り、名主の幸右衛門と、その他月番の三人が、暗い顔を寄せ合って待っていた。 幸右衛門は、歌麿の顔を見ると、慰めるように声をかけた。 「飛んだことでお気の毒だが、これア、何かお 上 ( かみ )の間違いに違いあるまい。 お前さんのようなお人が 仮 ( かり )にもお奉行所へ呼び出されるなんてことは、ほんとの災難だ。 天に眼あり。 決して正直な者が罪に 陥 ( おち )るようなことはありゃアしねえからのう」 口の先では強いことをいっているものの、町役人達も、さすがに 肚 ( はら )の中の不安は隠せなかったのであろう。 同心渡辺金兵衛の迎いが、一刻でも遅いようにと、ひそかに祈る心は誰しも同じことであった。 しかも五月の空は 拭 ( ぬぐ )った如く藍色に晴れ、微風は子燕の羽をそよそよと 撫 ( な )でていたが、歌麿の心は北国空のように、重く曇ったまま晴れなかった。 四 それは正に、 夢想 ( むそう )もしない罪科であった。 両国広小路の 地本問屋 ( じほんどんや )加賀屋吉右衛門から頼まれて大阪の絵師石田玉山が筆に成る(絵本太閤記)と同一趣向の絵を描いた、その図の二三が 災 ( わざわい )して、 吟味中 ( ぎんみちゅう ) 入牢 ( じゅろう ) 仰付 ( おおせつく )といい渡された時には歌麿は余りのことに、 危 ( あやう )く 白洲 ( しらす )へ 卒倒 ( そっとう )しようとしたくらいだった。 死んだような気持で送った牢内の三日間は、 娑婆 ( しゃば )の三年よりも永かった。 「これからは 怖 ( こわ )くて、絵筆が持てなくなりやした」 出牢後、五十日間の 手錠 ( てじょう )、家主預けときまって、再び己が画室に坐った歌麿は、これまでとは別人のように弱気になって、見舞に来た 版元 ( はんもと )の誰彼を 捕 ( つか )まえては、同じように牢内の恐ろしさを聞かせていたが、そのせいか「八十までは女と寝る」と 豪語 ( ごうご )していた、きのうまでの元気はどこへやら、今は急に、十年も年を取ったかと疑われるまでに、身心共に 衰 ( おとろ )えて、一杯の酒さえ目にすることなく、自ら進んで絵の具を 解 ( と )こうなどという、そうした気配は、薬にしたくも見られなかった。 しとしとと雨の降る、 午下 ( ひるさが )りだった。 歌麿はいつものように机にもたれて茫然と、一坪の庭の 紫陽花 ( あじさい )に 注 ( そそ )ぐ、雨の 脚 ( あし )を見詰めていた。 と、あわててはいって来たおつねが、来客を知らせて来た。 「どなただか知らねえが、初めての方なら、病気だといって、お断りしねえ」 「ですがお師匠さん、お客様は 割下水 ( わりげすい )のお 旗本 ( はたもと )、 阪上主水 ( さかもともんど )様からの、急なお使いだとおっしゃいますよ」 「なに、お旗本のお使いだと」 「そうでござんすよ。 是非ともお目に掛って、お願いしたいことがあるとおっしゃって。 ……」 「どういう御用か知らねえが、お旗本のお使いならなおのこと、こんな 態 ( ざま )じゃお目に掛れねえ。 「お師匠さん、その御遠慮には及びませんよ」といいながら、庭先の 枝折戸 ( しおりど )を開けて、つかつかとはいって来たのは、大 丸髭 ( まるまげ )に 結 ( い )った二十七八の水も垂れるような美女であった。 「これアどうも、こんなところへ。 ……」 あわてる歌麿を、女は手早く押し止めた。 「あたしでござんす。 おきたでござんす」 「え。 「おお、おきたさんか。 お見舞に伺ったのでござんす」 辷 ( すべ )るように、歌麿の 傍 ( そば )へ坐ったおきたは、如何にもじれったそうに、衰えた歌麿の顔を見守った。 が、歌麿の微笑は冷たかった。 「お旗本のお使いと聞いたから、 滅多 ( めった )に 粗相 ( そそう )があっちゃならねえと思って断らせたんだが、なぜまともに、おきただといいなさらねえんだ」 「そういったら、お師匠さんは、会ってはおくんなさいますまい。 さぞ憎い奴だと思し召したでござんしょう。 おきたの心は、やっぱり昔のままでござんす。 ふとしたことから、お前さんの今度の災難を聞きつけましたが、そうと聞いては矢も 楯 ( たて )も 堪 ( たま )らず、お目に掛れる身でないのを知りながら、お 面 ( めん )を 被 ( かぶ )ってお訪ねしました。 「いや、 折角 ( せっかく )の志しだが、それには及ばねえ。 今更お前さんに 擦 ( さす )ってもらったところで、ひびのはいったおれの体は、どうにもなりようがあるめえからの」 きのうまでの歌麿だったら、百に一つも、おきたの言葉を 拒 ( こば )むわけはなかったであろう。 まして七八年前までは、若い者が 呆 ( あき )れるまでに、命までもと打込んでいた、当の相手のおきたではないか。 向うからいわれるまでもなく、直ぐさま 己 ( おの )が膝下へ引寄せずにはおかない筈なのだが、しかし 手錠 ( てじょう )の中に細った歌麿の手首は、じっと組まれたまま動こうともしなかった。 おれアもうお侍と聞くと眼の前が真暗になるような気がする」 「おほほほ、弱いことをおっしゃるじゃござんせんか。 そのような楽な手錠なら、はめていないも同じこと、あたしが 外 ( はず )して上げましょうから、いっそさっぱりと。 ……」 おきたは如何にも無造作に、歌麿の手錠に手をかけた。 「あ、いけねえ」 「そんな 野暮 ( やぼ )な遠慮は、江戸じゃ 流行 ( はや )りませんよ」 ぐいと手錠を逆に引張った 刹那 ( せつな )、歌麿は右の手首に、刺すような 疼痛 ( とうつう )を感じたが、忽ち黒い血潮がたらたらと青畳を染めた。 「あッ」 さすがにおきたは、驚いて手を放した。 「飛んだことをしてしまいました。 ……」 が、歌麿はうつむいたまま、一言も発しなかった。 おもてを流して通る 簾売 ( すだれうり )の声が、高く低く聞こえていた。 「師匠」 「えッ」 その声に、ぎょっとして 面 ( おもて )を上げた歌麿の、くぼんだ眼に 映 ( うつ )ったのは、庭先に 佇 ( たたず )んだ、同心渡辺金兵衛の姿であった。 五 この後、金兵衛の姿は、常に魔の如く、歌麿の 脳裡 ( のうり )にこびりついて、寸時も消えることがなかった。 その金兵衛に、ところもあろうに、初めて訪ねた 陰女 ( やまねこ )の家で会ったのだった。 跣足 ( はだし )のまま逃げた歌麿が、駕籠屋を呼ぶにさえ、満足に口がきけなかったのも、無理ではなかった。 「師匠」 昨夜の様子を、一刻も速く聞きたかったのであろう。 まだ 六 ( む )つが鳴って 間 ( ま )もないというのに 彫師 ( ほりし )の亀吉は、にやにや笑いながら、画室の障子に手をかけた。 「師匠。 ゆうべのお疲れでまだ夢の 最中 ( さいちゅう )でげすね」 ふところから、 叺 ( かます )と 鉈豆煙管 ( なたまめぎせる )を取出した亀吉は、もう一度にやりと笑うと、おつねの出してくれた煙草盆で二三服立続けに すぱりすぱりとやっていたが、頭から 夜具 ( やぐ )を 被 ( かぶ )った歌麿が、 小揺 ( こゆる )ぎもしないのにいささか 拍子抜 ( ひょうしぬ )けがしたのであろう。 しばし口の中で、何かぶつぶつ 呟 ( つぶや )くと、立って、勝手許にいるおつね婆のほうへ出かけて行った。 「おつねさん。 師匠はまだ、なかなか起きそうにもねえから、あっしゃ一寸並木まで、 用達 ( ようたし )に行って来るぜ」 「亀さんにも似合わない、お師匠さんが、こんなに早くお起きなさらないのは、知れきってるじゃないか」 「知っちゃアいるが、 今朝 ( けさ )ばかりは、別だろうと思ってよ」 「そんなことがあるものかね。 大きな声じゃいえないが、ゆうべは何か変ったことでもあったと見えて、夢中で 駈込 ( かけこ )んでくると、そのままあたしに 床 ( とこ )を取らせて寝ておしまいなんだもの。 そう早く起きなさるわけはありやしないよ」 「ふん、だからよ。 だからその変ったことのいきさつを、ゆっくり師匠に 訊 ( き )きてえんだ。 半時ばかりで帰って来るから、よろしくいっといてくんねえ」 亀吉の足音が、裏木戸の外へ消えてしまうと、 怯 ( おび )えた子供のように、歌麿は夜具の 襟 ( えり )から顔を出して、あかりを見廻した。 「びっくりさせやがる。 こんなに早く来やがって。 それはゆうべ会った 陰女 ( やまねこ )のお近と寸分も違わない、 茗荷屋 ( みょうがや ) 若鶴 ( わかづる )の姿だった。 「うむ、ひょっとするとこれやア 姉妹 ( きょうだい )かも知れねえ。 と、その瞬間、急に手先の 痺 ( しび )れるのを感じた。 「こ、こいつア、いけねえ。 「お、つ、ね。 「大変ですよ。 お師匠さんが大変ですよ」 おつねが、耳の遠い秀麿を、声限りに呼んでいるのを、歌麿は夢のように聞いていた。 文化三年九月二十日の、鏡のような秋風が、江戸の 大路 ( おおじ )を流れていた。
次のあの日も『てめえはホント馬鹿だな!』と火のついたような怒鳴り声が聞こえていた。 『ぎゃあ』とか『あぁ〜』とかお子さんが激しく泣きわめいている声が聞こえてくるので、うちの子は怖がっていたんです」(近隣住民) 小池百合子都知事がゴールデンウイークの「ステイホーム」を呼びかけていた5月3日(日)の午前1時頃、都内のとある閑静な高級住宅街の一軒家に、警察官と児童相談所職員が駆け付けるトラブルが発生したことがわかった。 富川アナを番組で観なくなってから約1カ月が経つ。 富川アナは4月11日(土)、新型コロナウイルスの感染検査で陽性が確認されたことが明らかとなり、13日(月)から番組出演を見合わせている。 その後、2度のPCR検査で陰性と判定され、21日(火)に退院し、現在は自宅療養中だ。 そんな療養中の富川アナに一体何が起きたのか。 実は、複数の近隣住民の証言によれば、富川家の起こしたトラブルはこれが初めてではない。 近隣住民は日々戦々恐々として過ごしているという。 中学生と小学生の2人の男の子の父 富川アナは2016年4月11日、古舘伊知郎の後任として「報ステ」のメインキャスターに就任した。 プライベートでは2006年に結婚。 現在では、中学生と小学生の2人の男の子の父親である。 「富川さんの奥様は普段はとても礼儀正しい方で、性格はサバサバしている方ですよ。 もともとタレント活動をしていたそうで、とてもお綺麗でスタイルも良い。 最近はプリザーブドフラワーを扱うお仕事をされていると話していました」(富川家と交流のある近隣住民) 今回の警察トラブルの一部始終を見ていた別の近隣住民が話す。 「お前は脳みそが腐ってんだよ!」近隣住民もビックリ 「『だからお前は脳みそが腐ってんだよ!』という、富川さんの奥様の怒鳴り声が聞こえてきたのです。 ビックリして外を見てみると、富川さんの奥様がご自宅の屋上で、中学生のほうのお子さんを叱っていたんです。 『早く寝ろ!』とも怒っていらした。 そして、その絶叫から10分後くらいに、2人組の自転車に乗った警察官が駆けつけてきました」 富川一家は3年前に越してきたばかりだという。 新築3階建て、屋上付きの一軒家。 このエリアにはマンションや戸建てが密集し、富川邸の裏にはファミリー向けの大型マンションが建っている。 近隣との距離はかなり近い。 富川一家が越してきて間もなく、その絶叫は近隣の間で噂になったという。 72 ID:4cYizDkb0. 61 ID:Yj0lacdb0. 33 ID:niIHzdWi0. 81 ID:tvUpzLhi0. 68 ID:cfJm6agx0. 03 ID:n627E5cY0. 85 ID:0w4c8slU0. 48 ID:8SuVepiD0. 33 ID:b8sCDE1f0. 55 ID:xPpsAJPo0. 85 ID:rDIkaAj90. net 富川自身もパワハラ体質らしいし似たもの夫婦なんだろうな。 net 男の子ばっかりのお母さんって 結構怒鳴り散らさないイメージあるわ。 多少の事で動じてたらやってられないんだか、いざって時しか怒んない感じ。 家みたいに女1男1のほうがヒステリックになってると反省すること多い。 net 奥さんは有名人何ですか?すごくプライバシーの違反行為のする記事です。 子どももいるし、どうなんでしょう、この報道。 net これマジなの? 信じられない、、、 富川さんこんなにドス黒いもの持ってたなんて、。 net パワハラ夫に虐待妻ね。 家グッチャグチャだなw 夫が家庭を顧みないで妻にワンオペ育児させてるとこうなるよね。 net 富川も家で苦労しているんだな。
次の「んで、今日は何よ? わたしも暇じゃないんで、さっさと言えや」 据わった目をしたシェイラさん。 美人なだけに、超怖い。 「あ、いや、ほら!! これぇぇえ!! 見て、聞いて、読んで、感じてぇぇぇえ!! もーーーー読んで読んでぇぇえ!」 …………うっざ。 「ペッ! 貸せよ。 ん~……何々? ヴァイパーやるじゃない。 「すんません」 「けっ。 それを……!! しかも、絶体絶命のピンチを何で助けてるの??? え?? え、え、え??? えええええ??!! 「い、意味わかんないいでしょ?!」 「い、意味わかりません……!!」 だろ? 絶対そうだろ?? 「なんで? 何で殺さないの?!」 「何で勇者パーティのメンバー助けちゃってるの?!」 しかも、トラウマ克服とか……!! おまけに、滅茶苦茶強力な浄化魔法の覚醒とか!! いや、もう! 「いや、どーーーーすんの、これ??」 「いや、どーーーーしましょうか、これ?」 最近人手不足気味の魔王軍。 え? どうすんの? 「え。 これ詰んでない?」 「え。 あ、はい。 寝れる日があるだけでもありがたいと思えッつの……」 いや、どーーすんのよ?! マジにやばいんですけど。 この大僧正が覚醒しちゃったら、アンデッドの軍隊なんてただの 案山子 ( かかし )ですよ? 後方でしか使えないばかりか、下手すりゃそれも、 おじゃん ( ・・・・ )……。 「やっべぇ……」 勇者ナナミだけでも厳しいのに、何を敵に塩を送りまくってるのかな、隠密のヴァイパーさんはよぉぉぉお!! しかも、なに? 添い寝? 二人の女の子と? え? ちっちゃい子とイチャイチャ・ラブラブ? え? いいのそれ? 「ダメでしょ?」 「アウトですね」 ヴァイパーのアホは気付いてなさそうだけど、これって二人とも完全に惚れてるよね? シレ~っとハーレム作りそうだよね? なによ、日替わりで添い寝とか。 え? 何それ? 魔王様だって、母ちゃんと添い寝してもらったことくらいしかないよ?? なにそれ。 ズルい。 ワシも添い寝して欲しい。 「言ったよね?」 「シツコイと嫌われますよ。 クソジジイ」 あ、ほらぁ!! 言ってるじゃん!! 「言ってません。 あー無駄な時間過ごしたッ!」 こ、こいつ……。 「言っとくけど、ちゃんと管理職手当はあげてるからね? 知ってる? 四天王は給料イイんだよ?」 「あーはいはい。 ひとりで言ってろジジイ。 んで何よ? いいからお前は、はよ対策たてろやッ。 ヴァイパーの奴、何も分かってないわよ?」 そうなんだよ……。 あの子、アホの子なんだよ……。 「いや、お前からもアイデア出してよ。 ほら、若い感性ってやつで」 「そー言うの、丸投げとか、無茶振りって言うんですよ」 そうなんだけどね……。 いや、だって、どうしろっていうの? こんなアホなスパイ、みたことない。 「いっそ撤収命令を出しますか? ヴァイパー抜きの方がまともな戦争できるかもしれませんよ?」 「だよね~……う~~~~~~~~ん」 魔王デスラードは頭を抱えて悩みこむ。 ヴァイパーのやっていることは、全部裏目に出ている気がしてならないのだ。 だが、現在に至るまで勇者パーティに潜入し、正体がバレていないという実績があるうえ、確実に勇者パーティの内情を入手しているのも事実。 そんな芸当が他の者にできるかというと、それも難しいだろう。 なにより、一応は勇者パーティの信頼を得ているのだ。 少なくとも、添い寝するくらいには……。 ぶっちゃけ、妙案はないのだ。 こういうのは、一々言わずとも 忖度 ( そんたく )して なんぼ ( ・・・ )ではないだろうか? 「取りあえず、交代要員を探しつつ、現状は命令を厳格にするべきでしょう」 「やっぱそれしかないよね? バカだもんね、アイツ」 シェイラの意見にウンウンと頷く魔王。 「 お前 ( ・・ )ほどではないけどね。 ……コホン、では命令の素案を作りましょう」 「おい」 「まずは、勇者パーティに利することがない様に、しっかりと明文化するべきです」 「おい!」 「何スか?」 いや、何スか? って軽いねシェイラちゃん。 「もっと誠実に」 「………………すみません。 補佐役のシェイラさんがいなくなると、我が軍ガタガタです。 ごめんなさい。 生意気な口ききません」 「うむ」とシェイラが満足げに頷き仰け反る。 大きなおっぱいがブルルんと揺れた。 おー……。 「では、この程度でいかがでしょう?」 追加命令(案) 〇 勇者パーティに利するべからず。 ヴァイパーが勇者パーティ内で自由に動けるのは、 彼 ( か )の者が我が軍を相手にしても容赦がないからでしょう」 「確かに……。 この命令だと、我が軍に対して指一本触れられなくなるのぉ……」 うーーーーむ……。 「隠密のヴァイパー告ぐ、」 魔王デスラードの思い付きに近い命令が届くのは、かなりあとのこと。
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