あおり運転事件とは? 茨城県守谷市の常磐自動車道であおり運転をした後、停車させて男性会社員を殴りけがを負わせた事件で、傷害容疑で指名手配していた会社役員の宮崎文夫容疑者(43)が大阪市内で逮捕されました。 上が、その容疑者の写真です。 また、あおり運転の際に同乗していた交際相手の会社員女性、喜本(きもと)奈津子容疑者(51)も、宮崎容疑者をかくまったとして、犯人蔵匿・隠避の疑いで同時に逮捕されました。 あおり運転容疑の内容 宮崎容疑者は10日午前6時15分ごろ、守谷市大柏の常磐自動車道上り線の守谷サービスエリア付近で、前方を走っていた男性会社員の乗用車をあおった後、前方に割り込み無理やり停車させた上で降車。 男性に対して「降りてこいや。 殺すぞ」などと怒鳴りつけ、運転席の窓から拳で男性の顔面を複数回殴打し、顔などにけがを負わせた疑いがあるということです。 車の窓から、ドライバーを殴りつける宮崎容疑者。 男性のドライブレコーダーが一部始終を録画していたものが残っています。 男性は現場から110番通報し、11日に傷害罪で被害届を提出していました。 喜本奈津子容疑者もかくまった罪で逮捕 ドライバーを殴りつける隣で、車の外に立っている喜本容疑者。 一方、喜本容疑者は、宮崎容疑者が指名手配中であることを知りながら自室マンションにかくまい、食事などを購入していました。 ガラケー女と言われる由来は? 喜本容疑者ガラケー女と呼ばれたのは、宮崎容疑者が、あおり運転被害者を殴りつけている間の様子を、ガラケーと呼ばれる折り畳みできる携帯電話で、その一部始終を撮影していたためです。 車はディーラーの代車 宮崎容疑者が乗っていた車は、7月21日に横浜市内のディーラーから定期点検の代車として3日間貸し出されたもので、宮崎容疑者は期限を経過しても返却しませんでした。 事件翌日の8月11日に、代理人が後部がへこんだ車を返却。 県警が15日、車を押収して調べたところ、約20日間で約2千キロもの距離を走行していたことがわかりました。 宮崎文夫容疑者のSNSの写真 高級な物への執着があり、宮崎容疑者の母親は、「お金を持って行ってしまう」と知人に漏らしていたということです。 宮崎文夫は高学歴 宮崎容疑者の学歴が、いわゆる高学歴であることも判明しました。 高校は大阪府立天王寺高校、大学は関西学院大学を卒業しています。 宮崎文夫容疑者の職業 宮崎文夫容疑者の職業は、大学卒業後は、精密機械メーカーに就職。 しかし、祖父の遺産など受け継いだ資産があり、そのマンションで不動産管理や賃貸業などを手掛けていたということです。 ブランド志向でもあり、母親は、宮崎容疑者が「お金を持って行ってしまう」と知人にこぼしていたということも伝わっています。 宮崎容疑者はこれまで、茨城や静岡など複数個所で、あおり運転と暴行を繰り返しており、指名手配を受けていましたが、昨日、両名とも逮捕されましたので、これで一安心です。 被害を受けたドライバーの人たちは、「二度と免許を持たせないでほしい」と話しているということです。
次のある日突然、自分の名前や顔写真、住所などの個人情報がインターネット上で公表される。 情報が広がるスピードは速く、2時間もあれば数百万人が、自分を犯罪者として叩き始める。 家族まで危険にさらされ、仕事の信用も失う。 そんなこと、自分の身には降りかかるはずがないと思っているのではないだろうか。 しかし、こういったネットでの誹謗中傷事件は10年ほど前から増え続けている。 なぜ、こんなことが起こるのか…。 誹謗中傷書き込みで犯罪者にされた被害者を取材。 彼らもまた、まさか自分にこんなことが…と思っていた。 常磐自動車道で2019年8月10日に発生した「殴打事件」では、宮崎文夫被告が、当時24才の男性にあおり運転を仕掛け、その後無理矢理停止させ、「殺すぞ」などと怒鳴りながら殴打した。 その様子を脇でガラケーを使い撮影する「ガラケー女」も注目された。 1件の投稿がツイッターに上がった。 このツイートは瞬く間に広がり、その女性の顔と名は犯罪者として日本中に知れ渡ることとなった。 【2019年8月17日(土) 午前6時】 彼女が事態に気づいたのは午前6時のことだった。 「あの日は、休日だったにもかかわらず、早朝からたくさんのメールが送られてきたんです。 タイトルには『宮崎の女だろう』などと書かれており、わけがわかりませんでした。 電話も執拗に鳴り続けていたのですが、知らない番号だったので無視していると、友人から連絡が。 慌てて出ると、私を犯罪者とする内容の情報がネットに流れており、実名と顔写真も公開されていると教えられました。 何が起こっているのか状況がわかりませんでしたが、自分が犯罪者扱いされている事実に対し、どう対処すべきなのかを考えました」 当時を振り返り、そう話すのは、茨城県で起きたあおり運転殴打事件の容疑者と間違われ、ネットに個人情報を流されてしまった被害女性Aさんだ。 落ち着いた物腰、冷静な語り口調の彼女だが、当時はパニックを起こしたという。 この事件は、8月10日に起こった。 宮崎文夫被告の車に同乗し、その蔵匿・隠避にかかわった、通称「ガラケー女」と、インスタグラムにアップされたAさんの写真の服装やサングラスがたまたま似ていたことと、宮崎被告がAさんのインスタグラムをフォローしていたことから、Aさんが「ガラケー女」だというデマが流されたのだ。 【2019年8月17日(土) 午前7時44分】 苦情の電話が300件以上鳴り、インスタグラムへの誹謗中傷だけでも1000件以上。 知らない人からのいわれのない悪口や脅迫にさらされ、通常なら、恐怖で思考停止になってもおかしくはない状態だ。 にもかかわらず、彼女の行動は早かった。 「何をしていいのかわからなかったのですが、とにかくなんとかしなきゃと必死でした。 周囲の人に相談しても、誰も経験のないことで、答えが見つからない。 なのに、私への投稿はものすごいスピードで増え続け、一時、インスタグラムが読み込み中のまま開かない状態にまでなりました。 怖くて仕方がなかった。 それでとりあえず、フェイスブックに自分の声明を投稿することにしたんです」(Aさん) それが7時44分のこと。 《起きたら犯罪者扱いされててびっくりですが完全に事実と異なりますので無視してください》 こう投稿するが、これがさらに火に油を注ぐこととなった。 《捕まれBBA(ババア)》《殺人未遂犯した後にのうのうと生きてインスタ更新できないよね。 (中略)精神異常者》をはじめ、文字にすることもはばかられるような誹謗中傷が殺到。 Aさんは、自分では対応しきれないと、朝9時に知人に相談。 そこからさらに弁護士の小沢一仁さんを紹介してもらった。 ここで、ネット炎上に詳しい小沢さんと巡り合えたのは幸運だったといえる。 【2019年8月17日(土) 午前9時〜午前中】 「私はまず、Aさんに警察へ相談に行くこと、そしてデマを否定する声明文を出すことを提案しました。 間違った情報が流れて騒ぎになった場合、なるべく早く、当事者からデマを否定する正式な文書を出した方がいいからです」(小沢さん) とはいえ、Aさんも午前7時の段階でデマを否定する投稿を上げたが、余計に炎上した。 早く弁明することは重要だが、タイミングと文章の内容が大切で、これらは専門家に任せた方がいいと小沢さんは注意を促す。 その後、Aさんは小沢さんの言う通り、警察の生活安全課に相談に行く。 ところが…。 「警察に説明しても信じてもらえませんでした。 相談に来たという記録だけ残すと約束してもらい、帰りました」(Aさん) こういった件で、すぐに警察が動くことはまれだそうだが、後々、脅迫やストーカー行為など、別の刑事事件に発展することも考え、相談の履歴は残すべきだという。 【2019年8月17日(土) 午後〜深夜】 Aさんが警察に行き、ネット環境から少し離れている間に、情勢は変わっていた。 それまでは罵詈雑言一色だったのだが、朝7時台に出したAさんの声明などを受け、「人違いだったら大変ですよ」などといった冷静なツイートが増えたのだ。 そして夕方には「デマだ」という声が大きくなっていった。 「Aさんがガラケー女であるという根拠が、サングラスや着ている服が似ているということだけ。 あまりに理由がお粗末なことに気づいた人が増えていったんです」(小沢さん) デマだという声が増えつつある今こそ、あらためて正式な声明文を出すタイミングだと小沢さんは考え、早急に文書を作成。 日付が変わった18日深夜に、Aさんが代表を務める会社のホームページ上に、デマを否定する声明文を公表した。 【2019年8月18日(日) 夕方以降〜現在】 声明文のおかげで事態は落ち着いたが、さらにAさんの無実を決定づける出来事が、18日夕方に報道された。 これで完全に解決したように思われたが、実はこの件に関する被害が、事件から半年たった今でも続いている。 「容疑者の逮捕で、私への疑いは晴れましたが、会社関係者や取引先への説明を兼ねて記者会見を開きました。 これですべてが明らかとなり、嫌がらせも収まると思ったのですが…。 一度ネットで炎上すると、思いがけない方向へ飛び火してしまうのだ。 「Aさんは、あくまでも被害者です。 ですから、誹謗中傷の中でも内容が悪質だった人やリツイートして拡散した人などに対して訴訟を起こすべく動いています。 これは当然のことです。 今回の件は、犯罪者を懲らしめたいという思いで多くの人が誹謗中傷の投稿を流したのだと思います。 しかし、たとえ正義感に基づく行動でも、無関係の人を傷つければ、違法行為になるんだということを知ってほしいですね」(小沢さん) 人を貶めるような情報は信じない、拡散しないようにするべきだと小沢さんは続ける。 そしてAさんは、今回のことは誰にでも起こり得ることだと警鐘を鳴らす。 「私に起きた一件が、SNSやインターネットを利用するすべての人の意識を変えるきっかけになってくれればと思っています。 それは被害者になり得るんだ、ということだけでなく、リツイートボタンひとつで簡単に加害者にもなり得て、逆に訴えられる可能性もあるんだということも含めてです」(Aさん) ネットに意見を投稿する際は、一度立ち止まって、情報の真偽を見直す癖をつけるべきだと、Aさんと小沢さんは口をそろえる。 自分の素性をさらした状態で言えないせりふは決して吐くべきではないのだ。
次のオオシバくん: あおり運転殴打事件で、『宮崎文夫容疑者と同乗していた女』とのデマ情報を流された女性が記者会見を行ったね。 平松デスク: そうだね。 ネットでの名誉毀損モノでは、泣き寝入りになってしまうケースが多いと思うんだけど、この女性が、記者会見まで開いたのは、ネットのデマ情報に対する危機感があったからだよね。 その決断に敬意を表したいと思う。 「朝起きたら、犯罪者扱いをされていた」というのは、本当に怖い話だ。 提訴だけではなく、刑事告訴も検討しているようだけど、実は名誉毀損罪が成立するのはなかなか困難なんだ。 オオシバくん: なぜ難しいの? 平松デスク: 今回のようなケースだと、デマ情報を流した人がどれぐらいの『悪意』を持っていたかを証明しなければならないんだけど、これが難しいのさ。 いかに、相手をおとしめよう、社会的評価を下げよう、名誉をないがしろにしようという認識を持っていたかを明らかにしなければならないんだ。 過去にも、ネット被害や中傷が事件になったことがある。 例えば、2017年東名高速であおり運転の末に、夫婦が死亡した事故。 あの時も、運転していた男についてデマの情報を流したとして、11人が名誉毀損容疑で書類送検された。 デマを流された人はかなり大きな被害を受けた訳だけど、結局11人全員が不起訴になったよね。 他にも書類送検された事件があるけど、おそらく不起訴になっているケースが多いはず。 検察としても、『悪意』の立証が困難な上、『軽い気持ち』での書き込みが多いので、刑罰を与えるのを躊躇せざるを得ないのだと思う。 オオシバくん: それは、ちょっと甘すぎじゃないの? 平松デスク: それは同感だね。 ネットでの中傷やデマでは、民事裁判にはなっても刑事事件にはならない、という印象が定着しちゃうと良くない。 だから、ちょっと極端な言い方をさせてもらうと、検察官は起訴して裁判までは持って行かないまでも、略式起訴してバンバン罰金刑にするべき。 『かるい気持ち』でも犯罪者になる、というメッセージを送る必要があると思うよ。 【イラスト:さいとうひさし】.
次の