アスクドクターズ監修医師 この記事の目安時間は3分です フィッシャー症候群とは? フィッシャー症候群は末梢神経に異常をきたす病気です。 末梢神経とは手足や感覚器、または臓器などにある神経系のことです。 末梢神経に異常があり、運動神経や感覚神経に障害が出る病気を「ニューロパチー」と言いますが、ギランバレー症候群はその1つで比較的よく知られています。 フィッシャー症候群は「ギランバレー症候群」と呼ばれる病気の特殊な形と言えます。 ギランバレー症候群の特徴は手足の腱反射(ひじやひざを木槌などで叩くと持ちあがる反応など)と筋力の低下ですが、 フィッシャー症候群では「外眼筋」と呼ばれる目の運動を担う筋肉が麻痺するのが特徴です。 その他にもギランバレー症候群と同様に腱反射の低下がみられたり、運動機能に問題が起こったりします。 日本でのフィッシャー症候群の年間発症率は10万人あたり0. 5人とされ、欧米(イタリア0. 03人)よりも東アジア(台湾0. 3人)での発症が多いようです。 ギランバレー症候群と同様に男性の方が多く、あらゆる年齢層の人が発症します。 フィッシャー症候群の原因は フィッシャー症候群では、ギランバレー症候群と同様に、急性期に血液中の「抗ガングリオシド抗体」の濃度が上昇します。 「ガングリオシド」とは、「糖脂質」といわれる細胞の膜を作っている物質の一つです。 ガングリオシドは、特に神経細胞に多く含まれます。 糖脂質は脂質の部分と、糖が連なっている「糖鎖」(とうさ)と呼ばれる部分からできていて、糖鎖にはいくつもの種類があります。 フィッシャー症候群では、たくさんの種類の糖鎖の中で、「GQ1b」と呼ばれる糖鎖に対する抗体が上昇する(免疫が間違って対応しようとする)のが特徴です。 GQ1bは「外眼筋」と呼ばれる眼に関する筋肉を支配する神経に多く含まれています。 GQ1bに抗体が結合して、神経細胞を壊したり、その働きを阻害したりすることがフィッシャー症候群の原因です。 フィッシャー症候群の患者さんの約8割が発症以前に、喉の炎症など上気道炎を起こす菌やウイルスの感染を経験しています。 感染の原因となる菌またはウイルスが同定(特定)されることは少ないですが、一部の患者さんで「インフルエンザ桿菌(かんきん)」という菌が見つかっています。 この菌は「 GQ1b」 によく似た成分を持っていることがわかっています。 インフルエンザ桿菌に感染した際には通常、人の体の中で菌に対する抗体が作られます。 抗体のおかげで再び菌に感染したときには、速やかに菌を駆除することができます。 ところが、人の神経細胞にあるGQ1b糖鎖はインフルエンザ桿菌の成分によく似ていることから、抗体は人の神経細胞を誤って攻撃してしまうのです。 フィッシャー症候群の症状 フィッシャー症候群に特徴的な初期症状としては、眼の筋肉が麻痺することで起こる「複視(物が二重に見えること)」や、運動失調からくる「ふらつき」です。 半数の症例では、ギランバレー症候群と同様に腱反射の消失が見られます。 また、半数以上の人はまぶたが下に垂れ下がり、半数弱の方に瞳孔が動かないといった目の異常も見られます。 約3割では顔面神経の麻痺があり、思うように顔の筋肉を動かすことができません。 しびれなど感覚の障害は2割前後にみとめられます。 眼の異常があることから最初は眼科を受診することが多いですが、精密な検査は神経内科で行なわれます。 フィッシャー症候群の治療、予後 フィッシャー症候群は、ほとんどの場合、半年以内に自然に回復します。 そのため重症化した場合をのぞき、特に治療を必要としません。 約1カ月でふらつきなど(運動失調)は改善し、3カ月で目の筋肉の麻痺(外眼筋麻痺)がとれます。 また回復後も後遺症などは起こりにくいようですが、高齢であったり、急激に重症化が起こったり、外眼筋すべて(6種類)が麻痺した場合には後遺症が残る可能性が大きくなります。 また同時にギランバレー症候群を発症することがあり、免疫療法が必要になる場合があります。 フィッシャー症候群が再発した例がいくつか報告されています。 再発率に関するデータはありませんが、再発可能性はあるようです。 再発までの期間にはばらつきがありますが平均9. 5年で、10年以上たってから再発した例も報告されています。 最初に発症した時と同じような症状が出ますが、順調に回復し予後は良好です。 再発の原因はわかりませんが遺伝的な原因も示唆されている状況です。 【関連の他の記事】• フィッシャー症候群についてご紹介しました。 眼の神経症状に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
次のギラン・バレー症候群とは? ギラン・バレー症候群は急性および多発性の神経炎で、主として運動神経障害を引き起こして手足の筋力低下をもたらす疾患です。 前駆症状としては、咽頭痛や発熱などの風邪のような症状をはじめ、急性の結膜炎や消化管症状が見られることがあります。 これら前駆症状の後に引き起こされやすい神経症状として多く見られるものが、運動神経障害に伴う筋肉の脱力や麻痺で、多くは足から手の方へ移行していきます。 ギラン・バレー症候群に対する治療としては、一般的に免疫グロブリン大量療法や血漿交換療法、リハビリテーションが行われています。 ギラン・バレー症候群のリハビリの目的は? ギラン・バレー症候群は治療によって回復や治癒が期待でき、予後も比較的良好な疾患とされています。 その予後ですが、治療などを通して回復、治癒する場合が多く、中には自然に回復していく場合もあります。 そして、ギラン・バレー症候群の治療ではリハビリテーションが重要です。 その理由としては、ギラン・バレー症候群は主として運動神経障害から急速な手足の筋力低下を引き起こすため、短期間で容易に筋力低下が進行しやすく、そのことによって歩行困難など日常生活に著しい支障をもたらす可能性があるためです。 また、筋力低下は日常生活へ支障をきたすだけでなく、身体を動かすことが困難になることによって深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。 したがって、できるだけ早期の段階から筋力低下の進行を予防、もしくは維持していくことで日常の生活動作に支障をきたさないようにすることが、リハビリの大きな目的となります。 どのようなリハビリが行われるの? ギラン・バレー症候群に対するリハビリテーションは、主にPT(理学療法)とOT(作業療法)に分けることができます。 PT(理学療法) PTでは生活動作に必要な手足の筋力の改善や維持を目的としてリハビリテーションを行っていきます。 具体的には、手足の筋力トレーニングや歩行トレーニング、階段昇降のトレーニングなどです。 なお、これらは痛みや疲労を生じさせないように注意して行っていく必要があります。 OT(作業療法) OTでは生活に必要な細かい動作の改善や維持を目的としてリハビリテーションを行っていきます。 具体的には手足の細かい動きをサポートしながら食事や更衣のトレーニング、手作業などがあります。 なお、これらは必要に応じて装具を使いながら行うこともあります。 ギラン・バレー症候群のリハビリ期間は?いつまで続ければいいの? ギラン・バレー症候群に対するリハビリは発症後早く始めるほどよいと考えられているため、診断が下されたら早い段階でリハビリ計画が立てられます。 発症後まもなくの頃は神経麻痺が重度なことも多いため、筋肉に過度な負担がかからないように運動量や運動強度を調節しながら行います。 そして徐々にリハビリの範囲を広げていくのです。 リハビリ期間や回復までの時間は重症度などによって個人差がありますが、目安としては2か月ほどかかることが多いとされています。 しかし、神経麻痺が重度な場合には発症後一年以上経過してもリハビリを続ける必要があるケースもあります。 どのようなリハビリをいつまで続けるかについては、主治医や理学療法士などと良く話し合って、それぞれの症状に適したものを行うようにしましょう。 おわりに:適切な治療やリハビリを続けて、良好な予後を 筋力低下に伴う日常生活への支障や合併症を防ぐために、リハビリは欠かせないものです。 ギラン・バレー症候群は適切な治療やリハビリを継続することによって、良好な予後を送れることが多いので、根気よくケアを続けていきましょう。
次の補足説明! 筋力低下は徐々に進行していくため、歩行不能や嚥下障害、喀痰核出障害、呼吸筋麻痺による呼吸困難が出現します。 手袋・靴下型感覚障害 ギラン・バレー症候群の患者の症状の1つとして、感覚障害も出現します。 その症状の主体は手袋・靴下型感覚障害と言います。 手袋・靴下型感覚障害は、手 や足の末梢に特に強い感覚障害をきたすようになり、深部反射も全般性に消失・減弱していきます。 自立神経障害 ギラン・バレー症候群の患者の症状として、起立性低血圧、血圧の変動、頻脈、不整脈などの自立神経障害も挙げられます。 また、 自律神経障害を発症し、まれに膀胱直腸障害や乳頭浮腫を認めることもあります。 ギラン・バレー症候群患者に対し看護師が注意すべき症状 ギラン・バレー症候群の患者に対して、看護師が注意すべき症状は、感冒症状や四肢麻痺などがあります。 その中でも、筋力低下によって嚥下障害による誤嚥性肺炎や転倒転落を起こすことがあるなどの、2次的な症状に注意しなければなりません。 それぞれの症状について詳しく見てみましょう。 感冒症状 感冒症状は、ギラン・バレー症候群の初発症状となります。 発症は、ウィルス感染によるものであるため 罹患する年齢も様々です。 そのため、若い人では風邪であろうと自己判断したことによって症状が悪化してから来院する人が多くいます。 感冒症状や筋力低下がみられる患者に対しては、ギラン・バレー症候群を疑って問診を勧めましょう。 四肢麻痺や筋力低下 四肢麻痺や筋力低下は、上行性と言い下肢から上肢にかけて発症していきます。 そのため、 患者が今どの状態にあるかを判断して看護をしていくことが必要です。 筋力低下が進むと、嚥下障害による誤嚥性肺炎や転倒転落を起こすこともあります。 特に転倒転落は、起立性低血圧の症状が発症した場合にも起こりやすく、起立性低血圧や血圧の変動は生命にも影響を及ぼす可能性が十分にあります。 補足説明! 筋力低下が進めば寝たきりとなってしまい、廃用症候群となる可能性もあります。 ギラン・バレー症候群の治療方法 ギラン・バレー症候群の治療は、薬物療法が主流です。 薬物療法と並行してリハビリテーションを行い、関節拘縮等を予防します。 以下に、ギラン・バレー症候群の治療としての薬物療法の詳しい説明をしていきます。 薬物療法 薬物療法では、免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法、副腎ステロイドを使用します。 ギラン・バレー症候群は、その発症分類によって回復速度が大きく異なります。 呼吸筋麻痺や不整脈、血圧の変動などは直接死因に結びつくことがあるため、臨床分類を行ったうえで治療法を決めていきます。 そのため、 モニタリングを行って全身管理をし、呼吸障害に関しては人工呼吸器を装着して管理をしていきます。 呼吸筋麻痺が生じることで生命へのリスクがある• 嚥下筋の麻痺により誤嚥性肺炎の可能性がある• 全身の筋力低下や関節拘縮によりセルフケア障害が生じる可能性がある• 筋力低下、歩行障害による転倒転落の可能性がある• 思い通りに動けないことによる精神的苦痛がある 上記の問題から、ギラン・バレーの患者の看護計画についてご紹介します。 1 呼吸筋麻痺が生じることで生命へのリスクがある 短期目標 異常の早期発見、呼吸筋麻痺による生命へのリスクを最小限にできる OP 観察項目 ・VS(血圧、体温、脈、SPO2、呼吸回数、呼吸リズム) ・呼吸困難感の有無 ・無呼吸の有無と程度 ・胸郭の動き ・検査データ TP ケア項目 ・心電図モニターを装着し、医師の指示が出るまでモニタリングを行う ・緊急時に備えて人工呼吸器やエアウェイ、気管挿管グッズ等を準備する ・モニタリング中異常アラームが鳴ればすぐに訪室をする EP 教育・指導項目 ・呼吸困難感が生じたらすぐに看護師を呼ぶよう説明する ・モニターは自己にて外さないように説明する 2 嚥下筋の麻痺により誤嚥性肺炎の可能性がある 短期目標 誤嚥性肺炎を起こさずに経過できる OP 観察項目 ・VS(体温、血圧、SPO2、呼吸音、エア入り、左右差がないか) ・食形態、とろみの使用の有無 ・過去の誤嚥の有無と程度 ・咳嗽、喀痰の有無 ・自己喀痰の可否 ・VF(嚥下造影検査)施行の有無と結果 ・舌の動き ・発声、発語が明瞭か TP ケア項目 ・患者の食事状況に合わせて食形態を変更する。 必要時は水分にとろみをつける ・一口量を調整してもらう。 ペースが速い、詰め込みすぎるという場合は介助をする ・自己喀痰が不可である場合は適宜吸引を行う ・VF(嚥下造影検査)の結果に合わせて食形態を変更する ・STと連携し、病棟でもリハビリを行う EP 教育・指導項目 ・自己でもリハビリを行うように説明する ・食事はゆっくりとよく噛んで摂取するよう説明する 3 全身の筋力低下や関節拘縮によりセルフケア障害が生じる可能性がある 短期目標 自分の身体の状況に合わせて無理なくセルフケアを行うことができる OP 観察項目 ・筋力低下の有無と程度、範囲 ・知覚障害の有無と程度、範囲 ・麻痺の有無と程度、部位 ・関節拘縮の有無と部位 ・トイレ動作の可否 ・食事摂取動作の可否 ・歩行の可否と程度 ・リハビリ状況 ・治療内容(点滴の使用の有無、人工呼吸器使用の有無) TP ケア項目 ・排せつはトイレ動作が可能である限り介助をしてトイレへ誘導する。 トイレ動作が不可能である場合はおむつを使用する。 排尿に必要な神経や筋肉が障害されている場合は 膀胱留置カテーテルの使用や導尿を行う ・清潔動作はできない所の介助を行う。 シャワーや入浴の場合には症状の程度に合わせ介助・見守りを行う ・食事摂取は筋力や麻痺の有無に合わせて食器類を検討する ・移動時はリハビリの状況に合わせて歩行、車いす等の方法で行う ・リハビリスタッフと連携して病棟内でもリハビリを行う ・人工呼吸器を使用している、点滴を使用している場合は適宜介助を行う EP 教育・指導項目 ・自己にて無理して行わずに看護師に介助を求めるよう説明する 4 筋力低下、歩行障害による転倒転落の可能性がある 短期目標 転倒転落をせずに入院生活を送ることができる OP 観察項目 ・筋力低下の有無と程度、範囲 ・知覚障害の有無と程度、範囲 ・麻痺の有無と程度、範囲 ・過去の転倒歴 ・患者の性格(自己にて何でもやりたがる性格かどうか) ・点滴使用の有無 ・睡眠薬の使用状況 TP ケア項目 ・歩行ができる場合は介助歩行をする。 歩行が不可の場合は車いすを使用する等状況に合わせた移動手段を行う ・夜間は歩行ができる患者でも転倒リスクが高い場合は車いすを使用する ・ベッドストッパーや患者のパジャマのズボンの裾など環境を整える ・リハビリスタッフと連携してリハビリを病室でも実施する EP 教育・指導項目 ・無理して自己にてやろうとせず適宜看護師を呼ぶよう説明する ・日中歩行良好であっても夜間は車いすを使用する可能性があると説明する 5 思い通りに動けないことによる精神的苦痛がある 短期目標 精神的苦痛を表出することができる OP 観察項目 ・自身の病状の理解の有無 ・患者の表情 ・患者の言動 ・夜間睡眠状況 ・家族、友人関係 ・患者の性格 ・入院前後での患者の変化 TP ケア項目 ・適宜訪室し、患者の思いや訴えを聴取する ・患者から相談があれば適宜対応する その際には個室を用意するなどして話しやすい環境を作る ・話の内容から他職種の連携が必要な場合には適宜連携をする (心理カウンセラーやメディカルソーシャルワーカーなど) ・必要時には精神安定薬などの処方を医師に相談する ・患者から受けた相談内容は記録に残しスタッフ間で共有する プライバシーや患者から秘密保持の扱いに注意する EP 教育・指導項目 ・悩んでいることがあれば看護師がいつでも相談になることを説明する 金銭的な相談など医療的な相談以外の相談もできることを説明する 5. ギラン・バレー症候群患者の看護の注意点 ギラン・バレー症候群の患者を看護する上での注意点として、以下の3点が挙げられます。 ポイント! 重症の場合や、リハビリをしていても10~20%の確率で後遺症を残す可能性があるものの、多くの場合完治する可能性があります。 重症例では突然死に至る場合があること 重症の場合では、生命へのリスクが非常に高い疾患となり、呼吸筋が麻痺した場合は突然死に至る場合もあります。 そのため、 看護師も症状に合わせて適宜食形態や移動の方法を検討したり、 症状の観察は適宜行ったりすることが必要です。 原疾患以外の疾患に罹患しないようにすること 呼吸筋麻痺以外にも、転倒や誤嚥性肺炎といった 二次的な症状が起こりやすい疾患となるため、原疾患以外の疾患に罹患しないといった注意が必要です。 まとめ 神経系の疾患は、難治である・完治が望めないと考える人が多いですが、このギラン・バレー症候群は完治が望める疾患です。 そのため、患者の状況に合わせた看護を適宜行い、後遺症を残さないようにしていくことで病気になる前と同じ生活を送ることができます。 異常の早期発見をすること、その状態に合わせて看護を展開することが患者の早期完治に繋がるきっかけとなります。 関連記事• SCU(Stroke Care Uni)をご存知でしょうか。 脳卒中ケアユニット・脳卒中センターと... 脳外科でよくみられる疾患の1つである脳出血。 脳血管障害は難しいとよく言われますがポイントをしっか... 脳神経外科に勤めていれば必ず出会うと言っても過言ではない疾患であるくも膜下出血。 くも膜下出血は、... 脳梗塞とは、様々な要因により脳の血管が狭窄や閉塞を起こすことで必要な栄養や酸素が運ばれなくなって... 慢性硬膜下血腫は脳神経外科においてはメジャーな疾患です。 特に、壮年期から老年期の男性に多くみられ... 神経内科では決して珍しくない病気の脊髄小脳変性症。 この疾患を題材にしたテレビドラマや脊髄小脳変性...
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